死神さんと死にたがり

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「あの人です。私が抱いて欲しい人」 そう言って歩いている男性を指さすと、死神さんはほうほうといって顎に手を当てる。 「なかなか男前じゃあないですか。ありゃモテますね。僕程じゃありませんけど」 「・・・あー、はいはいそうですね」 恐らく本気で言っているであろう死神さんを適当にあしらう。 死神さんは私を見て唇の端を持ち上げた。 「じゃあ、抱かれに行きましょうか」 「いや無理ですって」 無理無理無理。無理に決まってる。 何を無茶苦茶言ってんだこのアホ死神。 死神さんは訳が分からないといったように首をひねった。 「何でです?」 「相手は男性しか抱けないんですよ? 私は女です」 それに、と私は続ける。 「好きな人に嫌なことはして欲しくないんです」 死神さんは肩を竦めて、「そんなの自分勝手ですよ」と呟いた。 「大体、あなたは抱いて欲しいんですか? 抱いて欲しくないんですか? さっきから言ってることが矛盾してますよ。意味がわかりません」 「・・・確かに、それはそうですけど」 仕方がないというものだろう。 「乙女心ってやつですよ」 死神さんは再び肩を竦めた。 「僕ら死神にとっていちばん厄介なんですけどそれ」 「そんなこと言われたってしょうが無いじゃないですか」 ムッとして口を開くと、死神さんは急に思い立ったかのように手を叩いた。 「そうだ! あなたが男だったらいいんですよ!」 「男になれたら苦労しませんよ」 「なれますよ?」 「はぁ?」 「だからなれますって」 「何言ってんだかこのクソ死神」 「あー、言ったな! 傷つきました」 生産性のないやり取りを終えて、私はこの案件を一旦心のハウスに持ち帰り、整理してみた。 「・・・つまり、あなたは私を男性にすることができると・・・? そういうことですか?」 「はい! そういうことですよ」 死神さんは笑顔で頷く。 「・・・どうやって?」 「まずあなたが死んで、転生許可証にサインしてもらって、ご希望の性別のところをMALE、つまりMにしてもらったら完了です」 「・・・」 やはり、ろくな事じゃなかった。 「もし転生したら、私の記憶は残るんですか?」 「残りませんけど。抱いてもらったら蘇るんじゃないですか?」 あぁでも、と死神さんは声をあげる。 「もし転生したら赤ちゃんからなんで、だいて貰えるまで法律では20年かかりますね」 今度は私が頭を抱える番だ。 「そんなの・・・、相手はもう四十路過ぎてますよ・・・。 やめましょうその提案」 「えー、いいと思ったんだけどなぁ」
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