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というわけで、今私は私の想い人と一緒にカフェにいた。
彼は薄い唇を開く。
「さっちゃん、今日はどうしたの?」
彼は私のことをさっちゃんと呼ぶ、唯一の人だ。
私あと1週間で死ぬの!だから抱いて欲しいの!! なんて言ったら通報されるに決まってる。とてもじゃないけど本当のことは言えないので、私はゆっくりと汗をかいた水を飲む。
冷たすぎて、くらり、飲み込んだ直後に目眩がした。
「・・・あのね、実は私・・・・・・す、す、」
「す?」
「すき焼き食べに行きたくって!!!」
・・・なんだこのベタな展開・・・。
ベタベタすぎて死にそう。
「そうだね。今度食べに行こっか」
「う、うん」
逆になんで彼はこのベタベタな展開に気づかないんだ。
まぁ、天然なのだから仕方ない。
それを含めて私は彼が好きなのだから。
ちらりとカウンターの方を見ると、素知らぬ顔で死神さんがコーヒーを飲んでいるのが見えた。
死神さんの背中を見る度私は、あいつ本当に死神か・・・? と疑ってしまう。
だって格好が休日の大学生なんだもん。
でもまぁ、今はぶっちゃけそんなことどうでもいいのだ。
私は今、彼に本当のことを伝えなければならない。
ごくり、緊張により粘ついた唾を飲み込む。
「・・・それでね、私、あの・・・その・・・」
もごもごとマンボウのように口を動かす私を、彼は心配そうに見ていた。
「ん」 と、小さな相槌。
優しい笑顔が、私の生きる糧だった。
どうか私を嫌わないでください。
「あのね、私。あなたが好きなの」
彼はゆっくりと、しかし確実に普段はおっとりとしているその目を見開く。
彼になにか言われるのが怖くて、私は次の言葉を紡いだ。
「それで私、あなたに抱いて欲しい・・・んです」
怖くて目が合わせられなかった。
彼は今、どんな顔をしてるんだろう。
どんな目で私を見ているんだろう。
どんな思いを持っているのだろう。
全部全部知りたいのに、知るのが怖くて、手が震える。嫌な汗が出る。目が泳ぐ。
私はひたすらに彼の言葉を待ち続けた。
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