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「あ、帰ってきましたね」
「なんで私の部屋にあなたがいるんですか・・・」
「死神ですから」
そういって地元の大学生のような死神は、ニコリとして肩を竦めた。
「で、どうだったんですか? あの後2人でホテルに消えていきましたけど、ですけど!!」
「あぁ、はいそうです」
私は彼の言葉に虚ろに返事をした。
そうだ、私はあの後彼に連れられホテルに行ったのだ。
「で、抱いてもらいましたか?」
嬉嬉として聞いてくる彼に、私は曖昧に微笑んだ。
「まぁ、そうとも言えるし、そうと言えないとも言えます」
「つまり?」
「あなたの想定通り、彼は抱かれる側でした。だから文字通り私は抱いてもらったんです」
ほう? と彼は身を乗り出す。
「彼の胸にだいてもらって、ゆっくり寝ました」
「幸せでしたか?」
「はい?」
「だから、あなたは幸せだったかと聞いてるんですよ」
私は少しだけ考える。
「はい、幸せだったんだと思います。だって今、心臓の辺りがじわっと熱くて、身体がふわふわしてるんです。多分これって今、幸福噛み締めちゃってると思うんです」
彼は目を細めて笑う。
「そうでしょうね。だってあなた、今まででいちばんだらしない顔してますから」
「ふふふ、やっぱりですか? 幸せって押さえられないものなんですね。なんか・・・」
「なんか?」
「今更死にたくないなんて、思っちゃいました・・・」
しかし彼はその言葉をまるで聞いてなかったかのように立ち上がった。
「じゃあ、ちょっと来てみてください」
「? どういうことですか」
「いいから」
死神さんは私の手を取り、ずんずんと玄関へと歩き、部屋の前まで出た。
隣の部屋は今引越しの最中なのか、何人もの宅配業者の方が出入りしていた。
「・・・ここに来ていいんですか? あなた死神なんでしょ?」
そう問うと、彼は初めて大きく笑った。
覗く八重歯が可愛いと思う。
その時、宅配業者の1人が死神さんに声をかけた。
「あ、滝藤さん、冷蔵庫隅っこでいいですよね?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
・・・は?
今、宅配業者さん死神さんに声掛けたよね?
「・・・え、どういう・・・。もしかして宅配業者さんももうすぐ死ぬんですか・・・?」
そういうと彼は吹き出した。
失礼な。
「違いますよ。僕本当は滝藤って言うんです」
そんな急に言われても、理解できない。
戸惑っていると、彼はゆったりとした口調で話し始めた。
「最初は、これから住むアパートを外から眺めていただけなんです。そしたら屋上から飛び降りようとしている人がいて」
あ、それ私だ。
「それで、助けるにはどうしたらいいかなって考えてそれで・・・」
「死神って嘘ついたんですか?」
「・・・はい。僕実は俳優やってて・・・。まだ卵なんですけど・・・」
そ、そんな・・・。チベットスナギツネみたいな目をしないでください・・・。と死神さん、否、滝藤さんが言う。
「・・・じゃあ、私が1週間後に死ぬって言うのは?」
「嘘です」
「嘘・・・」
嘘だ、そう言われた瞬間、私の身体は、糸が切れたように崩れ落ちた。
「大丈夫ですか!?」と滝藤さんが駆け寄ってくれる。
「嘘をつくのはいけませんけどね、でも・・・」
私は彼の手を取りながら笑った。
「ありがとうございます」
彼は少しだけ驚いた表情をして、フッと頬を緩める。
「よろしくお願いします、さっちゃんさん」
あ、それは、彼だけのあだ名だ。
でも、まぁ・・・。
まぁいっか。
彼なら。
「こちらこそよろしくお願いします」
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