入部

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入部

ぼく、相原英太の通い始めた多摩境高校は、新宿から東京の西郊外をつなぐ京王線の多摩境という駅から歩いて15分のところにある。 多摩境駅っていうのは東京都の町田市と神奈川県の境目にある駅で、各駅停車しか止まらない田舎の駅だ。 この辺は小さいけど山がたくさんあるし、駅のホームから神奈川の方を見ると、なんだかドデカイ山々が見える。 確か丹沢山脈とかいうらしい。 東京と言ってもビルばっかりなトコだけじゃないってことだ。  この多摩境って町も、ちょっと前までは小高い山だったらしいけど、今は街道が作られ、その道沿いには飲食店やらマンションが立ち並んでる。まあ、その後ろは森が広がってたりするんだけど、電柱が地中化されてる綺麗な通りだ。 新しいお店、新しいマンション、そして新しい高校。 多摩境高校は、この4月で2周年を迎えたばっかりだ。 だからまだ卒業生ってのはいない。 ぼくはこの高校の3期生ってことになる。 どうせなら1期生のほうがよかったけど。   クラスには日比谷がいる。 そしてもう一人、中学からの友達がいた。 ぼくは、先に席に座っていたその友達に話しかけた。 「ねぇ牧野、牧野って陸上部入るんだよね」 牧野は元気よく振り返って質問に答えた。 「そう!よく知ってるな!」 「いや、中学んときも陸上部だったしさ」 「そう!よく覚えてるな!」 「いや、ほんのちょい前の話じゃん」 「そう!」 と言って牧野はなぜか大笑いした。 「それでさ、牧野って見学とか行くの?陸上部に」 「見学?ああー仮入部な!行くよ行くよ!なんで?」 「いやーそれがさぁ。んー、ぼくも仮入部っての?しようかなと」 笑顔だった牧野がふと真顔になった。 ぼくは思わずたじろいだ。 なんだってイキナリ真顔になるんだ。 「な、なんだよ」 うわあー、たじろいだ上に噛んでしまった。 そんなぼくに牧野はちょっと笑って言った。 「きついよ、長距離」 なんで長距離?
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