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雪沢先輩と穴川先輩は2年生だという。 そのわりには長距離は雪沢先輩が仕切っていた。 「雪沢先輩、3年生は今日は来ないんですか?」 こう聞いたのは鼻に大きなホクロがある1年男子だ。 すると雪沢先輩は苦笑いみたいな表情で答えた。 「3年はね、いないんだよ。長距離には」 「へえ、いないんですか」 「そう、だからオレが練習メニューとか作るの」 「え?顧問の先生とかいないんですか?」 すると雪沢先輩は空を見上げた。つられてぼくも空を見上げた。 小さな鳥が何羽かグループで飛んでる。 「顧問の先生は今はちょっといないんだ。いろいろ事情があって」 「事情?ほう、事情とは一体」 ほくろクンはなかなかしつこいヤツだ。 さっきから雪沢先輩が答えたくなさそうな雰囲気なのにKYな感じでしつこく食い下がってる。 あ、KYってのは「空気・読めない」の略語だ。 「でもね、短距離には顧問いるよ。志田先生ってゆう」 「長距離にはいないんですね。それは一体何故」 ほくろクンはまだ食い下がる気だろうか。 しかし今度は背の少し高めの一年が口を開いた。 「センパイ、いいから練習しましょうよ」 「お、そうだね。よし、まず準備体操」 ほくろクンはまだ話したそうだったが口を挟まれたので、しぶしぶ準備体操を始める。 でも、口を挟んだヤツもさっきのセリフはなんか冷たい感じだ。 準備体操は多摩境高校陸上部のオリジナルで、屈伸やら前屈やらを10分ほどやった。2年が2人、1年が6人。 初めて8人での共同の行動だ。 ぼくは中学は吹奏楽部だったわけなので、たった8人というのはなんだか不安なんだけど、やっぱりみんなで同じことをするのって楽しい。 体操が終わったところで穴川先輩が大声を出した。 「うーし、ジョックだ。走るぞー」 ジョックか。ふふふ、1位とるぞ。
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