8人が本棚に入れています
本棚に追加
雪沢先輩と穴川先輩は2年生だという。
そのわりには長距離は雪沢先輩が仕切っていた。
「雪沢先輩、3年生は今日は来ないんですか?」
こう聞いたのは鼻に大きなホクロがある1年男子だ。
すると雪沢先輩は苦笑いみたいな表情で答えた。
「3年はね、いないんだよ。長距離には」
「へえ、いないんですか」
「そう、だからオレが練習メニューとか作るの」
「え?顧問の先生とかいないんですか?」
すると雪沢先輩は空を見上げた。つられてぼくも空を見上げた。
小さな鳥が何羽かグループで飛んでる。
「顧問の先生は今はちょっといないんだ。いろいろ事情があって」
「事情?ほう、事情とは一体」
ほくろクンはなかなかしつこいヤツだ。
さっきから雪沢先輩が答えたくなさそうな雰囲気なのにKYな感じでしつこく食い下がってる。
あ、KYってのは「空気・読めない」の略語だ。
「でもね、短距離には顧問いるよ。志田先生ってゆう」
「長距離にはいないんですね。それは一体何故」
ほくろクンはまだ食い下がる気だろうか。
しかし今度は背の少し高めの一年が口を開いた。
「センパイ、いいから練習しましょうよ」
「お、そうだね。よし、まず準備体操」
ほくろクンはまだ話したそうだったが口を挟まれたので、しぶしぶ準備体操を始める。
でも、口を挟んだヤツもさっきのセリフはなんか冷たい感じだ。
準備体操は多摩境高校陸上部のオリジナルで、屈伸やら前屈やらを10分ほどやった。2年が2人、1年が6人。
初めて8人での共同の行動だ。
ぼくは中学は吹奏楽部だったわけなので、たった8人というのはなんだか不安なんだけど、やっぱりみんなで同じことをするのって楽しい。
体操が終わったところで穴川先輩が大声を出した。
「うーし、ジョックだ。走るぞー」
ジョックか。ふふふ、1位とるぞ。
最初のコメントを投稿しよう!