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多摩境高校は28位で3区の穴川先輩に繋いだ。
50位の目安としていた葉桜高校は一区の秋津伸吾の好走があって11位でこの中継所をスタートさせていたので、もう目安にも何もならない。
「どっちにしろ、思いきり走ればいいんだろ」
穴川先輩はそう考え黙々と走っていた。
ぼくから見ても穴川先輩はパワーがあるわけでもスピードがあるわけでもない。
最初から最後までただ黙々と走る人だ。
夏の合宿までは本当にそれだけな感じだった。
淡々と走るだけでラストスパートも何もないからぼくや牧野でも勝てるようになっていた。
・・・でも、穴川先輩は変わった。
合宿の何がそうさせたのか、穴川先輩に聞くわけにもいかないから理由はわからないけど、確実に変わった。
淡々と走る・・・という表現には実は変わりはない。ただ、最後の最後までペースが落ちない。
早くなったり遅くなったりしがちなぼくと違って、常に安定したタイムが出せるんだ。
その安定さを買われて、8キロという長丁場の3区を任された。
7キロが過ぎ、周りの選手がスパートをかけたり遅れていったりしだした。
しかもさすが28位で受け取っただけあり、周りの選手は早い早い。
それでも穴川先輩はペースを崩さずに走っていた。
「ペース変えて乱れてどうすんだ」
心の中でそう思ったという。
でも、最後の直線で次の剛塚の姿が遠くに見えた時、頭の中に怒りが沸いた。
「あいつ・・・!!」
剛塚さえ現れなければ、安西が陸上部に絡んでくることもなかった。
剛塚さえ現れなければ、雪沢がケガすることもなかった。
剛塚さえ現れなければ、50位内でなければ活動停止なんて条件つかなかった。
剛塚さえ現れなければ、今、こんなスパートかける気にもならなかったのに!
「くそおおおお!!」
穴川先輩は普段なら絶対にしないラストスパートをかけていた。
「そんなにオレらと走りてーなら順位上げてきやがれ!!」
そう叫んで剛塚にタスキを渡した。
どこにも向けようがない怒りを走りにぶつけたのだ。と思う。
この時点で多摩境高校は37位だった。
剛塚は穴川先輩からタスキを無言で受けた。
順位上げるなんて無理だ。と思った。
このチームの中で大山の次に遅いのはオレだ、と自分でわかっていたからだ。
それなのに五月先生は剛塚に4区、8キロを任せた。長丁場だ。
後半の6区、7区は初めから牧野とぼくに決めていたらしい。
6区、7区は両方とも5キロ。牧野もぼくが最も得意とする距離だ。
ならば8キロは誰にするか。
たくみ・大山はそんな長い距離はムリだ。となると・・・という消去法だったらしい。
でもぼくはこれで正解だったと思う。
剛塚は燃えると爆発するヤツだ。
まるで爆弾だ。危険という意味も含めて。
爆弾こと剛塚は、穴川先輩に「順位上げてきやがれ」と言われたことを考えながら走ってた。
「そんなんで許してもらえるのか??」
そう思わずにはいられない。
中学では陸上部に暴力的態度で絡んだくせに、五月先生に「そのエネルギー違うことに使えよ」と言われたからというだけで、五月先生の率いる陸上部に入り、合宿では牧野と殴り合い、秋には安西に絡まれる原因となり、終いには雪沢先輩のケガの原因にまでなった。
「この部のヤツらはおかしい!」
剛塚はずっとそう思ってた。
次々と問題を起こしてきたのに、みんな剛塚に「おまえ、迷惑だから辞めろよ」的な事は言わなかった。
いや、言った事はあったが、今こうして選手として選ばれるほどに普通に接してくれている。
むしろ、一緒に続けていきたいという反応ばかりだ。
「この部のヤツらはおかしい!」
今、どんどんと他校の選手に抜かれて行っている。
順位は下がる一方だ。迷惑なだけだ。
なのに時折、路肩でもう出番の終わった名高やサポートの女子陣たちが叫ぶ。
「ファイトー!!剛塚くん!!」
「あと少しだ!頑張れー!!」
おまけに雪沢先輩までもが応援していた。
「剛塚ーー!!頼むぞー!!」
剛塚は不覚なことに走りながら泣きそうになった。
「男が泣いてどうすんだ・・・クソが」
そう思い、歯を食いしばって走り続けた。
途中、路肩に赤い髪の男子学生が見えた。
そいつは腕を組んだまま眉間にしわを寄せて、複雑な表情で剛塚を見ていた。
「安西・・・?」
そんなバカな。あいつが駅伝なんか見に来るわけがない。
そう思ってから前を見ると、中継ポイントが見えた。
大山が大きく手を振って待っている。
それを見て、剛塚は思った。
大山には悪いことをした・・・・と。
中学から今年の夏までずっとパシリとして使ってた。
すげえ長い間辛かったハズなのに、今、なんだか手を振って応援してる。
「あいつが一番おかしいよ」
剛塚はスパートかけながらそう思った。
そしてタスキを肩から外し、右腕に持つ。
「大山ー!!頼むぞーー!!」
言われた大山は一瞬ポカンとしたが、すぐにニコッと笑った。
「頑張るよ!!」
そして剛塚は大山にタスキを渡した。
もう、パシリで何かを頼むのではなかった。
大山を信頼し、4区までの意思を渡したんだ。
4区終了時点で多摩境高校47位
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