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 サトコとは中学校以来の付き合いだ。もっとも、よく話すようになったのは、高校で同じ部活に入ってからである。我らが文芸部は、毎年1回、文化祭のときに小冊子を作り、それを売ったりする活動をしていた。  彼女は文芸部の部長で、文芸部の部員たちに「印刷と締め切り」についてガミガミと発破をかけていた。たかが部活だからそんなに頑張らなくても、私たち受験生だし、最悪文化祭の前日に刷ればいい、という女子部員に対し、サトコはむかむかと来たようだった。彼女は学級委員長気質なのだ。  女子同士のケンカほど苦手なものはない。代々の部長を引き合いに出すサトコと、そんなに急がなくてもいいじゃん、と正論を言う女子部員。 「ねえ、トオル君はどう思う?!」  サトコに急に話を振られて、俺はこう言ったっけ。 「いや、部長が正しいと思いますよ、本当に」  正直、どうでも良かった。  結局、顧問の先生がやってきて、あっけらかんと、「いいよー、締め切りすぎても、最悪先生が徹夜で刷るから。あっはっはっは」と笑った時、サトコは拳を握り締めながら席に座っていたっけ。彼女は一体、誰のために怒っていたのだろう? 彼女は仕切りたがり屋だったのだ。部活をよりよいものにしたいというよりは、部活を支配したい。ただ、それだけ。 「私の味方はトオル君だけだよ」  帰り際、サトコがぼそりと呟いたとき、俺はなんと返したのだろうか?  俺は、数学Ⅱの問題集を解く手を止めて、引き出しの一番上にあったパンフに目を落とす。 『前期出願願書21日必着、消印有効。※大学に直接持ってきても構いません』 ■  土曜日、俺は新幹線に乗っていた。T大学にはキャンパス見学に行ったこともあるし、道順は知っていた。  新幹線と電車とバスを乗り継いで、その間ずっと音楽プレイヤーで英語のリスニングを聞いていた。それからT大学の広いキャンパスを歩き回って、事務室を見つける。 「T大学理学部前期の出願書をください」  会社の事務の女性に話しかけると、彼女は微笑んで、テーブルの下から、ビニールに包まれた冊子を取り出した。 「はい、どうぞ。でも、前期の出願は明日までですよ」 「大丈夫です。証明写真も糊も持ってきました。ここで書きます」  母親に、『T大学に出願しに行くから、お金が欲しい』と言うと、彼女はあっさりと1万円札を数枚渡してくれた。 「別に、母さんはいいわよ。息子が東京に行っても。ちょっと寂しいけどね」  大学の食堂で机を借りて、写真を切り、ボールペンで名前を書いていると、不思議と俺はこの大学に受かるような気がしてきた。食堂の中には数人の勉強している学生がいて、カップラーメンをすすりながらノートパソコンをいじっている人間もいる。  俺は願書を書き終わり、事務に提出しにいった。先ほどの事務の女性が、俺が扉を開けただけで、すぐにやってきた。 「願書を提出しに来ました」  一応俺は言ってみる。 「はい、では確認させていただきます」  お姉さんは書類を受け取って、ボールペンで欄を確認しながら、チェックを入れていく。引き出しから出したハンコを押し、それを持っていくと、奥のほうの、ネクタイを締めた事務の人と話をした。彼らは頷きあっている。 「はい、願書は受理されました。T大学理学部の前期試験、頑張ってくださいね」
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