赤い靴 =Another Story=

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     教会は森を抜けた開けた所にある。街を抜け出し、森の中へと入っていく。森の中は道らしい物があり、教会までは迷う事なく行ける。やたらと背の高い草が茂っているとか、茨が道らしき所を占拠しているとかはない。  途中で少し開けている所があり、そこには小屋が建っていた。ここが例の首切り役人が住んでいる所か。ここに住んでいる首切り役人にも話を聞く必要があるが、カーレンに会い、話を聞く事が先だ。首切り役人との話は帰りで良いだろう。  俺は教会へと急ぐ。  特に問題なく森を抜ける事が出来た。森を抜け、一気に降り注ぐ光に目を細め、俺は目の前の小さな教会を見つめる。  建物は立派な物ではなく、田舎の小さな教会と言った感じだ。教会に近づくと子供達の声が聞こえてきた。街の子供達だろう。俺は庭で遊んでいる子供達と簡単に挨拶をかわし、重厚な造りをした入口のドアの前に立つ。  ドアをゆっくりと開く。  湿った感じの軋む音が響く中、講堂の中は子供達とシスターの笑い声が響いていた。 入口で軽く会釈をかわし、中に入らずに立っていたら、一人の男がゆっくりとした歩調で俺に近づいてきた。  全身を黒い装束で包み、威厳な空気感を放ちながら、近づいてくる。  この男がここの神父か。俺は確信をし、その男に王室から出た調査許可書を提示する。男はその許可書をじっと見つめてから、表情を少し和らげる。 「私はブローナー。ここで神父をやっています。貴方の調査には極力、協力をしましょう」 「私はデュラン。よろしくお願いします」  俺はブローナー神父と握手を交わし、教会の中へと入っていく。 「カーレンとお話をしたいのですが」 「彼女ならあそこにいます」  俺はつまらない世間話をせずに、いきなり本題を切り出す。神父は、窓際に座っている少女を指差す。  窓際から差し込む光に照らされ、カーレンは幻想的かつ神秘的な美しさを放っていた。  ただ、木製の義足が、何とも言えない哀愁感を漂わせている。  神父に案内され、カーレンに近づく。神父に声をかけられ、振り向くカーレン。 「カーレン。こちらの王室の方が君に話があるそうだ。君に起こった事について詳しく聞きたいそうだけど、良いかな」  神父は静かな口調でカーレンに話をしてくれた。カーレンは少し困ったような表情を浮かべたが、神父の説得により承諾をしてくれた。  俺とカーレンは神父の案内により、別室で話をすることにした。  狭い部屋の中で、椅子に座り、カーレンと向き合う。 「私はデュラン。今回の調査に協力をしてくれたことに感謝をする。まずは、君が急に踊り出した事について聞きたいのだが」 「あれは天罰です。私がいけなかったのです……」  カーレンは下を向き、ゆっくりと話し始めた。  病弱な母親と過ごした貧困な子供時代、母親の死後、裕福な女性に引き取られ、裕福な暮らしが出来るようになったが、赤い靴に魅せられ、今回の悲劇に至るまでの話を、優しい声で丁寧に語ってくれた。 「ところで、君が赤い靴を履いていた時、君に語りかけてきた人はどんな感じの人だったのかな?」  今回の事件で、最初に感じ取った疑問だ。 「あの方は神の使いです。悪い道へ進みだした私を罰するために現れたのです」  カーレンは淡々と答えた。 「神の使いね。どんな感じだったかな」 「時には天使の姿をし、またある時は兵隊の姿をし、色々な姿に変えて私の前に現れました」  カーレンは自分の前に現れ、靴に呪いをかけた人間を、神の使いと思い込んでしまっている。これでは、求めている回答を得ることは無理だ。  俺は話を別の方向へもっていくことにした。 「私は、君が裕福な生活を始め、自分を少しでも綺麗に見せようとした事を、悪い事とは思っていないよ」 「そうですか……。けど、本当の美しさは内なる物にあるのです。私は間違えていました。外見などいくら着飾っても、無駄なのです」 「私が言いたいのは、君が考えている程、君は悪ではないということ。ただ、病の人を看ることを放置して、パーティーに行ってしまったのはよろしくないけどね」  少し笑みを入れながら話をしていく。カーレンは自分を罪人と思う気持ちが強すぎる。カーレンが悪なら、他の人間達の殆どが悪を超越した存在となってしまう。世界の終わりだ。 「そう言って頂けると少し救われた気がします。けど、私は悪だったのです。しかし、その悪を捨て去る事が出来たのです」  カーレンはスカートの裾を上げ、木製の義足を俺に見せる。 「神の使いの方が私に教えてくれたのです。悪の根源を捨て去りなさいと……。その証拠に切断された両足は、踊り狂い、血を流し続けながら、何処かに行ってしまいました。あの両足は今までの私と一緒に消えさったのです」  カーレンは微かな笑みを浮かべながら、黙々と話を続けた。  これ以上は無理か……。  俺が知りたかったのはカーレンに纏わりついた人物のことだったのだが、カーレンは「神の使い」と言い続けるだけで、質問に対して、的確な回答をすることが出来ない状態になっている。  カーレンの表情に疲労感を見て取った俺は、機会を改める事にし、神父とシスターにお礼を言って、この教会を後にした。
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