第11話 きっかけ

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隆成と隆康さんは不仲だが、妻同士は違う。 私はこの食事会で隆康さんの妻、善美(よしみ)さんと親しくなった。 善美さんは資産家一族のご令嬢で主人の隆康さんと同じ温室育ちだが、とても聡明な人だった。 誰にでも分け隔てなく優しく接し、風俗あがりの私を見下すことは決してしなかった。 寧ろ全身全霊で夫を立てる姿に尊敬していると言ってくれて、私は顔を真っ赤にして照れてしまった事を覚えている。 そんな善美さんが、私にだけ語ってくれた。 夫、隆康さんの真意を……… 「主人は言ってました。俺はあの人(隆成)が嫌いだ。高校の時、正義の味方のフリをした偽善者ぶった最初の頃から……その後、父から腹違いの兄だと聞かされ、全ての謎が解けた。俺には冷たかった祖父。父の何かに悩んでる姿。謎が解けた時、残ったのはあの人への憎しみだけだった」 「父はあの人の言う事を何でも聞いた。俺はこれ以上、奴の言いなりにならない方がいいと進言したが聞き入れてくれなかった。これが俺の罪滅ぼしだと言って………」 「俺は父に背負わされた十字架を壊したかった。その為にはあの人と戦わなくてはならない。しかし………無理だった。検察を解雇され、情熱を失ってもなお立ち上がるあの人の姿を見て確信したよ。敵わないとね」 「でも兄として認める事がどうしても無理だった。だけど君と結婚し隆哉が生まれた時、逃げてはいけないと思った。しかしどうやってあの人と接するか分からなかった。そこであの人との蟠りを無くす為に喧嘩をふっかける事にした。それには冴子さんの協力が必要だった。あの人をだしにしたのには申し訳なく思っている」 等と善美さんは私にだけ話してくれた。 でも私は驚きはしなかった。 逆に感心しつつも、呆れてしまった。
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