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私はふと、妹の事を想った。
行方不明だった妹をやっと見つけたのに、本人は記憶を失っていた。
姉として名乗りたい気持ちはいっぱいなれど、やはり夫の言葉が頭に過ぎる。
『全て思い出したら、二度と立ち直れなくなってしまう。もしかしたらまた俺達の前に姿を消してしまうことだって有り得るんだ』
悔しいが隆成の言ってる事は正しいのかもしれない。
それ故に、私は名乗る事を拒み続けた。
全てを思い出したら、嫌な思い出も蘇り、立ち直れなくなってしまい、またどこかに行ってしまうかもしれない。
最悪の場合は………
――ダメだっ!
正直、考えたくもない。
だから私は言えなかった。
折角、再会できたのに、それだけは避けたかった。
怖かった。
妹の笑顔を再び絶望に落ちる所を見ると思うと、恐怖で胸が打ち震えた。
でもこのままじゃいけない。
突然現れ、優しく接する私にあの子は必ず疑問を抱く。
そうなれば私は覚悟を決めなくてはならない。
だけど今はそんな日が来ないことを祈るばかりだ。
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