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大村が私にラインをよこした。
「今日、行こうぜ。」
あいつがこういう時はだいだい決まっている。バイト終わりの疲労した身体を起こして、私は準備をした。
私がいつものコンビニに行くと、まだ大村の姿はなかった。これもいつものことである。提案しておいて来るのが遅い。今日は誰がライブをしているのだろうか。スマホで情報をチェックすると、「ハナバナ」という歌手が出てきた。顔が幼い。年齢を確認すると、まだ一六であった。「これを見に行くのか?」
晩秋に通り向こうの家のイチョウは黄葉していた。空には薄雲がかかり白かった。通りは相変わらず、車通りが多かった。
漸く大村がぼろいママチャリを漕いで、笑顔でやって来た。
「これを見るの?」
スマホの写真を見せると、
「うん。それそれ。――もうはじまっとるから早く行こ。」
そう言った言葉とは矛盾して、大村はゆっくりコンビニで飲み物を選んだ。その矛盾に慣れている私の足取りもゆったりとしていた。コンビニを出て、交差点を南へ渡り、暫く道沿いに東へ、小さなお肉屋がある方を進んでいくと、音楽ホールがある。
音楽ホールはそこまで大きくなく、所々塗装が剥がれていたり煤んでいる。おそらく建設当時は西洋風のお洒落なものをイメージしたのだろう。入り口の回りの柱がパルテノン神殿風だったり、外壁の所々に波打たせた滑らかな装飾がある。――然し、よく見ないと気づかないほどに衰えきっている。一瞥ではバブル時代の残骸としか感じない。
然しそんな建物だからこそ未熟な若者には丁度良い。豪華絢爛、精妙巧緻、静寂閑雅……、そういったものは悉く大人、または時代を煌く人気者に取られてしまう。また身分相応、そういったものはまだ余りにも明るすぎる。――そんな奴らが集まるのだ。そういう私達も、只のピカピカの大学生である。
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