11人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
夏祭りとヤキモチさん
梅雨が明けきらず、長雨が続いている中。週末の夏祭りに、春先からお付き合いを始めた後輩の彼女を誘った。
祭りの当日、雨は降らずに晴れた。
日頃の行いが良いからかな、なんて思いつつ。意気揚々として待ち合わせの場所に。
現地に着いて頬が緩むのを止められずににやけていたら、変なものを見る視線を向けられた。
でも、まあ。仕方ないでしょ。
だってさ。可愛いんだもん。
待ち合わせ場所にいた彼女は、白地に赤い花柄の浴衣を着ていた。
いつもは学校の制服姿か、一緒に出掛ける時の私服姿しか目にしない。勿論、制服姿も私服姿も可愛い。
けど、浴衣は別格で良い。髪の毛も浴衣向けに編み込んであって、普段と丸きり違う印象だ。
浴衣を着てほしいと強請った甲斐があったな。
「やっぱり、女の子の浴衣姿って良いよね。可愛い」
思ったことを口に出すと、彼女は頬を赤くする。
よく『恥ずかしげもなく、そういうことを言わないで』といわれるけれど、手放しで褒めちゃうくらいに可愛いのは事実なんだよね。
そんなことを考えていたら、不意に彼女の頬が膨れた。
急にどうしたのかと思って首を傾げると、不服そうな眼差しが見上げてくる。
「……先輩って。女の子が相手なら誰にでもそういうこと、言っているんじゃない?」
「えっ!? そ、そんなこと無いしっ!!」
突然の話に、ひやりとしてしまう。咄嗟に違うことを口にすれば、不服を言い表していた目元が冷ややかなものに変わった。
「先輩は自分が女の子に人気があるって、知っているのかしら?」
えっと。そうなのか、と思った。確かにバレンタインの時とかは、チョコの消費に困るくらいではあったけれど。
だけど、それが今の話と繋がりがあるのかと考える。そこで、はたと気付いた。
ああ。これって、ヤキモチだ。
僕は入学したばかりのこの子を親友から紹介されて、その時にこの子に一目惚れをしている。そして、日を然程空けず、僕から告白していた。
その時は僕の勢いに流されて付き合えることになったと思っていたけれど、彼女も好意を持ってくれているのが分かって嬉しい。
「僕は、君一筋だよ?」
真剣めに言うと、今度は「本当?」と言いたげな眼差しを向けられたので、頷いて返事をする。
「周りの女の子から先輩の話を聞いていると、冷や冷やするのよね。先輩は誰にでも愛想が良いから」
うん。思わぬ話で僕も肝が冷えた。
僕は女の子たちの間で話題になっているのか。今度からは気を付けよう。
「変なこと言って、ごめんなさい」
「ううん。僕こそ心配させちゃったみたいで。ごめんね」
謝られたことに頭を振るう。安心したのか、彼女の口元から吐息が漏らされる。
そして、改めたように僕のことを見上げた彼女は、少しはにかんだ様子でくすりと笑った。
「いつもと違う先輩が見られて嬉しいな。浴衣姿も格好いい」
あ。それは反則だ。ズルい。
気持ちを抑えられずに照れていると、彼女から手を繋がれた。その手に指を絡めて握り返したら、驚いた顔をされたけれど嫌がられてはいない。
笑顔を向ければ、頬を染めた可愛らしい笑顔で返される。
思いも掛けない話題でひんやりした心が、ぽかぽかと温かくなっていく。
彼女のことが本当に大好きなんだと実感した。そんなお祭りの日になった。
最初のコメントを投稿しよう!