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「雫(しずく)原(はら)さんて、絵、上手いね」
高校生になると、芸術系の科目は選択で音楽・美術・書道を選ぶことができる。
私は書道を選んだつもりだったが、書道の先生は緩く基本的にサボりたがりな生徒の希望が殺到するから、あぶれた私は第二希望の美術を取ることとなった。音楽は発表があるから、完全に選択の余地はなかった。目立つことが私は大嫌いな生徒だから。
でも、絵を描くのはあんまり好きじゃない。小学生のときを思い出すから。
「……そんなことないよ」
一対一でペアを組み、互いの似顔絵を素描するというのが課題だった。私は出席番号の近い重野くんと組むことになる。
重野くんは顔立ちがはっきりしていて彫りが深い。目の覚めるような金髪もよく似あっている。特徴が捉えやすく、私の持つ鉛筆はスラスラと進んだ。
「……っあー、ダメだ全然描けねえ!」
煮詰まったのか彼は鉛筆とボードを放りだし、椅子にぐったりと寄りかかった。
「ねーお話しよ。疲れた」
「ん、」
重野くんは不思議な人だ。
私は男性が苦手だし、目立つ人と一緒にいることがほぼ0に近い人間だから、このペアを組まれたときはマジかよと天を仰いだが、授業が始まって話をしながら素描をしていると、意外にも話しやすくて流行りの音楽や漫画の話なんかをするようになった。友達には「重野怖くない?」「カツアゲされてない?」などと心配されたものだが、この人はそんな不誠実な人間でないことが分かるほど、醸し出す雰囲気は柔らかいものがある。
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