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「雫原さんこないだ猫撫でてたね」
「……見てたの」
「いつも行く渡り廊下からちょうど見えんの、中庭」
「猫かわいいよ」
「皆が餌付けしてるもんなあ~」
私は鉛筆を走らせながら相槌を打つ。
「そおいやさ、雫原さんって赤好き?」
バキ、と鉛筆の芯が折れた。
一瞬シンと沈黙が二人の間に流れた。周りはそんな私たちの空気に気づかず、賑やかに似顔絵を楽しんでる。
「……わり、俺なんか嫌なこと言ったんだな」
「……」
私は何と返そうかと言葉に詰まった。何故赤色が好きだと重野くんが思うのか、わからない。
赤色は大嫌いな色だ。何故?
「赤は、……嫌い」
私は傍らのビニール袋に、折れた鉛筆の芯を捨てて、カッターで芯を出すべく削った。
口は動かす。でも黙々と、鉛筆にカッターを添わせた。
「嫌なことだったならごめん。いやさ、雫原さん、スマホカバーも赤色だし、スニーカーも赤じゃん。好きなのかなってふと思っただけ。この話終わりな、不快にさせちまいそうだし」
重野くんは転がしていた鉛筆を再び手に取ると、紙の上に黒い粉末を走らせはじめた。
不自然な沈黙はカラカラとした賑やかな空気に溶け込んで不自然じゃなくなってる。私も再び芯を出した鉛筆を走らせ始めた。
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