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だから大丈夫、と少し腰を上げた重野くんが、私の頭をポンと一度だけ撫でた。そして再び深く椅子に腰掛ける。脚が長くて、組んだ左足が机に当たりそう。
私は少しだけ滲んだ視界をカーディガンの裾で拭って、持っていたスケッチブックを重野くんに立てかけて見せた。
「私、絵を描くのが好きなの。今度夕焼けを描きたいな、赤色の絵の具を使って。……美術部入ってみようかな。帰宅部だし」
私の絵を見た重野くんが大きな目を更に見開いたのが分かった。
「え――!? めちゃくちゃ上手ぇじゃん! 俺じゃん! すげー!!」
大きな声で騒ぎ立てるものだから、なんだなんだと人が集まってくる。
「えっ雫原さんめっちゃ上手い! 美術部でもないのに!」
「ほんで重野めっちゃ下手くそ! ナニコレ小学生の絵かよ!?」
「雫原さんに失礼だよアンタ謝りな! こんな立派な肖像描いてもらっておいて」
「俺だって一生懸命描いてこれなんだよ! なんで俺にだけ当たり強いのお前ら!」
私と重野くんは皆にもみくちゃにされながら笑いあった。
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