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「初めまして。
でも、どうして私を知ってるんですか?」
まだ頭の中がまとまらない。
「母に頼まれたんです。
今日僕も20歳の誕生日なんですが、これを託されたんです」
その手には、灰色の箱。
長いゴツゴツとした指が、その箱を開ける。
現れたのは、シンプルな指輪だった。
何も彫られておらず、ダイヤ等の飾り付けもない。
「これを兄は、取りに行く途中に交通事故にあってしまったそうです」
私はそれを手に取る。
私の手の中で光る指輪は、ありがとうと言ってる気がした。
そういえばあの頃、放課後に宗介と遊ぶことがなくなっていた。
宗介は『用事がある』とか言ってたけど、これのためだったんだ。
「貴方にあげる予定だったんだと思います。
あの手紙が机に残ってたみたいなので」
私は最初に貰った手紙をポケットから出した。
懐かしい宗介の文字だ。
宗介の気持ちが嬉しすぎて、口元が自然と上がる。
「これを渡せてよかった。
兄もきっと天国で微笑んでますよ」
そう言って若い男は微笑んだ。
そして、やっとわかった。
この男は、笑うと宗介そっくりだ。
宗介に似てる所がある弟を、宗介の母である政子さんは送り込んだんだ。
少しでも、宗介に渡してもらったと思えるように。
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