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南紅哉は竹刀ケースでそいつの頭を横殴りにぶん殴る。
男は打撃をもろに食らって、なすすべもなく吹っ飛んだ。
「おいおい……」
後ろから呆れたように声をかけてきたのは、木津蒼生だ。
「乱暴なヤツだな、そいつ死んじまうぞ」
紅哉の隣に並んで立てば、殴られて転んだ男はふたりの影の中に沈む。
「――ヒッ」
逃げ道を塞がれたことを悟って男は震え上がった。
紅哉は男を無表情な顔で見下ろして、
「こんなやつ、殺してやる価値もない」
冷たい声で言う。
「それに殺すつもりなら、これでぶった斬ってる」
ポンポンと手のひらで竹刀ケースをもてあそぶ顔は、それはそれは凶悪だ。
ケースの中に入っているのは本当に竹刀なのか?
もしかしたら本物の日本刀ではないのか?
「ゆ、許して……」
慈悲を請うため縋るような目で見上げれば、ふと蒼生が隣にしゃがみ込んできた。
首を曲げ男の顔を覗き込むようにして、
「あいつは堪え性がないんだ」
ニッと笑う。
その人懐っこい笑顔に、少し胸をなで下ろした。
蒼生からは紅哉みたいな凶暴な雰囲気は感じられない。
もしかすると仲裁してくれるのではないか。自分は助かるのではないか。
そんな期待を抱かせた蒼生は、親指で紅哉を指しながら、
「だから、ちょっとあいつにさ――」
謝れと言われるなら、とっくにそのつもりだ。
土下座だってなんだってする。靴だって舐める。
慌てて座り直す男に、
「殺されといてよ」
笑顔のままで恐ろしいことを言う。
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