藍一郎

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藍一郎

いきなり部屋のドアが開いて、 「明莉、来てたのか」 目つきの鋭いYシャツ姿の男が立っていた。 「……お父さん」 明莉が呼んだ。 ではこれが、刑事だという父親の藍一郎か。 「何しに来たんだよ」 追ってきたらしい蒼生が藍一郎の肩を掴む。 「明莉を今まで放っておいて、今さら何しに来たんだ」 別に放っておいたわけではないだろうが、蒼生にはそう見えるのかもしれない。 藍一郎は、うっとおしそうに蒼生の腕を払って、そして、詠の部屋にいた萌子に目を止め、 「キミは?」 「あ、私は――」 「明莉の友だち?」 と言ってしまっていいものだろうか。 しかし否定するのも気がひけて戸惑っていると、 「明莉を気づかってくれるのは嬉しいけど、学校はちゃんと行った方がいい」 「え?」 「同じクラスの、えーと美枝子ちゃんだっけ?」 「大学生で、長浜萌子です」 妙な感じで自己紹介することになった。 「ブハッ!」 たまらず吹き出す蒼生。 「藍一郎、いくらなんでもそれは失礼だ」 クツクツと笑いながら、 「どんだけ色気がなくても、萌子は大人だよ」 どっちが失礼なんだよと萌子は唇を尖らせる。 藍一郎は取り繕うようにコホンを咳払いをし、 「ちょうど良かった。知らせておきたいことがある」 真面目くさった顔をして蒼生に向き直る。 「実白(さねしろ)がこの街に帰ってきてる」
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