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先に口を開いたのは樹だった。
『今日はもう遅いから……宿舎で休んで、明日帰るか……そのまま合宿するか、決めておけ』
樹がミラー越しに話す……
……ブラウンの瞳が綺麗で……なんだか気恥ずかしくなり、目を反らした。
『……うん、わかった。……あの、樹…その、どうして俺を病院に……』
『偶然通り掛かった。まさかこの大学にいると思わなかったよ。お前が……意識が虚ろになっていて。友達とか、先生とか、ざわついてて。山奥で……今車を持っていて付き添えるのは俺しかいなかったんだ』
『そ……うだったんだ。ごめん、ありがとう』
『………あくまでも講師として学生に接しただけだから。気にするな』
〃講師として〃
そりゃそうだよな………
………今さら
俺は何を聞きたかった………?
………聞いてどうするんだよ
『あの……お金は、宿舎に帰ったら返すから』
『わかった』
それから……お互いに無言だった。
樹の
冷めたようなブラウンの瞳が……なんだか……知らない樹を見ているようで。いや、もう……俺の知らない樹だ……。あの時とはもう違う。
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