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「だが、せっかくそんな魔術を極めても披露の場がない。頭の悪い軍の連中の犬になるなんて嫌だし、罪のない人間を相手にしては、この霧崎みたいな下等生物と同じになってしまうからね。だから暇潰しに、こうして世の理から逸脱した危険人物を狩って遊んでいるのさ」
「遊び……?」
一瞬、善良な正義の人だと思い込んだ花子だったが、その言葉を聞いている内に、なんだかこの人もヤバイことを言っているように感じ始める。
「そう。だから道楽だと言ったろう? それじゃ、お楽しみも終わったんで、僕はこれで失敬するよ。ああ、女子の一人歩き、日も暮れるんで気をつけて…と一応、言っておこう。では、ごきげんよう……」
そこはかとない恐怖を再び感じつつ、唖然と花子が佇む中、赤マントはふざけて慇懃にお辞儀をしながら最後にそう告げると、まるで夕闇に溶け込むかの如く徐々にその存在を曖昧にして霧散するように消え去る。
「………………あ」
やはり夢か、あるいは大魔術会でも観覧しているかのようにそれを見届けた花子の視界に、傍らに転がって地面に血溜まりを作っている霧山捨久の骸がふと映り込む。
「…ひっ……きゃ、キャアァァァァァァァーっ…!」
今更ながらに、目の前で人が一人殺されたことを思い出した花子の絹を切り裂くような叫び声が、夕闇迫る静かな裏通りの町に木霊した。
(噂の赤マント 了)
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