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「…………あっ!」
だが、非情にも運命はさらなる不運をか弱き少女に与えたもうた。
すぐそこまで迫った赤マントの手を逃れるため、咄嗟に四つ辻の角を曲がった花子であったが、あろうことか、その道の奥には左右に伸びる橙色の土壁と同じものがそそり立っていたのだった。
つまり、行き止まりである……。
「……はぁ……はぁ……グスン……はぁ……はぁ……グスン…」
それでも足を止めるわけにはいかず、また、引き返すこともできない彼女は、そのままどん詰まりまで虚しく走り続け、壁が近づいて来るにつれて徐々に速度を落としてゆくと、ついにはやむをえず立ち止まる。
「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………ひぃ…!」
そして、引き攣った顔で恐る恐る背後を振り返ると、そこには悪い意味で予想の裏切られることはなく、赤いマントを羽織った制帽の男が立っていた。
「…ハァ……ハァ……捕~かま~えた~」
目深にかぶった制帽の下、赤い夕陽に照らされた口元を奇妙に歪め、やはり男も肩で息をしながら、とても耳障りな気持ちの悪い声で花子に話しかける。
本当に噂で聞くような、夕陽の如き真っ赤な色のマントを羽織った気味の悪い怪人物……他には誰もいない夕暮れの町、あの〝赤マント〟と対峙しているというこの状況は、恐怖を感じるとともになんだか不思議な、まるで夢でも見ているかのような感じも覚えさせられる。
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