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「……た、助けて……だ、誰か……誰か助けてえぇぇーっ!」
それまでよりも明確に恐怖と自らの死を認識した花子は、ここへきてようやく開かない喉を強引に開き、出ない声を無理矢理に出して助けを求める。
「……………………」
……だが、辺りはしんと静まり返ったままだ。
「……た、助けてぇーっ! 誰か! 誰か助けてえーっ!」
重ねて花子はありったけの声を張り上げて叫んでみるが、不思議なほどに近隣は静けさを保ったまま、相変わらず誰か来るような気配はない。
「無駄だ、お嬢ちゃん。ここら辺の家は敷地が広いし、意外と空家も多い。どんなに泣き叫んだって誰も来やしないさ」
その疑問に答えるかのように、赤マントはギラつく凶刃を花子に見せつけながら、ご丁寧にもさらに残酷な事実を彼女に告げる。
……つまり、もう助かる術は何も残されていないということだ。
「……た、助けて……お、お願いします……ゆ、許してください……」
それでも一縷の望み託し、花子は背後の壁にぴったりへばり付くと、少しでも目の前の殺人鬼より距離をとろうと試みながら、その当の本人に震える声で許しを請う……それが、無駄な足掻きであるとわかっていようとも。
「いいねえ。ますますいい表情になった。大丈夫だよ。すぐには殺したりなんかしないから。耐え難い痛みと死に対する恐怖をたっぷりと味わせてあげるよ……さあ、この夕陽の色とお嬢ちゃんの血の色、どっちの方が赤いかなあ?」
案の定、赤マントは情けをかける気などさらさらなく、よく切れそうな銃剣をチラつかせ、いやらしく舌舐めずりをしながらじりじりとにじり寄ってくる。
「…い、いや……だ、誰か……」
逃げ場のない背後へ1ミリでも逃れようと障壁にぐいぐいと背を押し付けながら、反面、いよいよ自らの〝死〟というものを花子は覚悟する。
「…ククク……さあて、どこから切り刻むのがいいかなあ? やっぱり……その 可愛らしいお顔かなあっ!」
そんな彼女にあと一歩という距離にまで近づいた赤マントは、まったく慈悲などとは無縁の笑みをその口元に湛え、鋭利に煌めく刃を逆手に握って大きく頭上に振りかぶる。
「ひぃ……」
……と、その時。
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