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それまでも、まるで夢の中の出来事であるかのように非現実的な感覚をどこか抱いていたのであるが、涙に滲む彼女の瞳にさらなる不思議な現象が映る。
赤マントの後に伸びる長い影がむくりと膨れ上がり、徐々に人の形になっていったかと思うと、もう一人〝赤マント〟が現れたのである。
一人目の赤マント――軍用マントの男よりももっと鮮やかな、夕陽に染まったカーキ色ではなく、真に赤い膝丈もある長いマントを身に纏った人物だ。
また、違うのは色合いばかりでなく、二人目の〝赤マント〟は制帽の代わりに、マントに付随するフードを頭からすっぽりかぶっている。
「……ん? なんだ?」
驚きに目を丸くする花子の表情を見て、赤マント…否、軍用マントの男は振り上げた手もそのままに訝しげな様子で小首を傾げる。
「やあ、帝国陸軍少尉・霧崎捨久君。少女暴行未遂の現行犯で逮捕だ……なんてね」
すると、真に赤いマントの男が軍用マントの男の背後で不意に口を開いた。
「な、なんだ! 貴様は!?」
今度は軍用マントの男が驚く番だった。
ひどく吃驚した様子で脇に飛び退くと、突如として現れたもう一人の赤マントに上ずった声を荒げる。
「大陸であれだけやらかしてもまだ飽き足らず、本土へ送り返されてもなおこんな遊びをしているとは……少々おいたが過ぎるようだねえ、霧崎捨久君。これはさすがにお仕置きが必要なようだ」
対して真に赤い〝赤マント〟の男は、妙に落ち着いた声で再び軍用マントの男に語りかける。
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