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「…ハァ……ハァ……な、なんなんだ、貴様は!?」
「危なっかしくて見ていられないねえ。君にその玩具はまだ早すぎるようだ!」
「うっ…!」
一連の攻撃が止んだ後、予想外の展開に血走った目をまん丸く見開き、息の上がった霧崎捨久にそんな戯言を言うと、もう一人は赤マントの下に隠れていた黒いスラックスの脚を大きく振り上げ、霧崎の手にしていた銃剣を夕焼けの空高く蹴り飛ばしてしまう。
「他人を切り裂くのもそろそろ飽きただろう。今度は自分が切り裂かれてみるってのはどうだい?」
そして、わずかな間を置き、キラキラと夕陽に輝きながら落ちてきた銃剣をその手に掴むと一閃、驚いた顔の霧崎の喉笛を横一文字に切り裂いた。
「くはっ…! ……は……はひへ……」
瞬間、真の赤マントよりもなお鮮やかな赤い色をした血飛沫が、夕陽に染まる町の路地裏に水芸の如く吹き上がる。
喉を切り裂かれ、一瞬にして大量の血液を失った霧崎捨久は、これでもかというくらいに大きく眼を見開き、ぴゅうぴゅうと声にならない声を出したのを最後に、肉体を支える力を完全に失ってその場へと崩れ落ちた。
「この霧崎捨久という男はね、派遣されていた満州で歪んだ快楽のために民間人の婦女を幾人も惨殺し、持て余した軍に追い出されて本土の癲狂院(※精神科医院)送りになっていたんだが、こちらでも懲りずに同じことを繰り返していたんだよ。まあ、薬物中毒やアル中みたいなもんだね」
あまりに非現実的なその光景に、ポカンとした顔で硬直している花子へ向けて、二人目の赤マントはひと一人殺めた後とは思えないくらい落ち着き払った声で親切にも説明してくれる。
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