仕事の時間

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仕事の時間

「なんで赤なんだろう」  まだ少年のあどけない顔立ちを歪めて、ナギはソファに身を沈めた。何の脈絡も無い彼の台詞に反応したのは、先程から向かい側の椅子で端末と睨み合いを続けていたスーツの男、トーノ。 「またそれか。いい加減にしろ、ナギ」 「トーノは他人事だからそう言えるんだ。僕の立場になって考えてみなよ」 「……。チキンライスしかない毎日とかか?」 「赤ならいいってもんじゃないから。はぁぁ、アンタに創造力を期待した僕が馬鹿だった」  天井を仰いで息を吐き出す姿は妙に様になっている。ナギの物言いに怒ることもなく、トーノは端末を内ポケットに入れて立ち上がった。掛けていたコートを羽織れば、《仕事》が来たのだと理解したのだろう。低く唸って抗議を始めるナギへ、彼の上着を投げてやる。 「いつまでもやってないで行くぞ。先行したチームが手こずっているらしい。俺達の出番だ」 「ううー……。こんないたいけな子どもを働かせるなんて。日本の教会はどうなってるんだ」 「俺よりはるかに年上のくせして、何を言っている」  トーノの同僚曰く、以前ナギが「信長を見たことがある」と自慢していたのを聞いたらしい。彼が見た目通りの子どもなら一笑に付する所だが、そうできない理由はただひとつ。  ようやく上着に腕を通したナギへ近寄り、手を差し出す。 「今日もよろしく頼むぞ、相棒」 「うっ、」  色白の頬が微かに染まった。優秀だが気難しい、というのは組む前にあったナギの噂。しかし真正面から真摯に頼めば、彼は素直に受け入れてくれる。その証拠に、そろそろとこちらに伸ばされる手のひら。 「……吸血鬼の僕に相棒なんて言うエクソシストなんて、アンタくらいだろうね」 「変わってるとはよく言われる。でも、お前もだろ」 「だって悪魔って美味しくないんだもん。それなのに色は同じだから、他のまで不味く感じちゃうんだ」 「緑ならいいのか?」 「うーん、それはそれで不味そうだけど」  ナギをソファから引き上げてやると、彼はたいした抵抗もせずに立ち上がった。ひとつ伸びをして、ぽつりと呟く。 「なんで悪魔の血って、赤なんだろ」  考えた所で答えの無い問いに「さぁな」と返して、トーノは部屋の扉を開けた。
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