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物心がついた頃。
前世の記憶がぼんやりと蘇った。……が、子供目線はこんなもんかな? と周りの大人の大きさについて深く考えなかった。
そして10歳の誕生日。
両親だと思っていた人達から衝撃の告白!
「実はお前は拾い子で異種族なんだ」
趣味で鳥の卵を獲りに行ったら居たらしい。
どう見ても鳥ではない(当たり前)と手のひらサイズの小さな赤ん坊だった俺を持ち帰って育てたけど、あまり大きくならないのでずっと小さいままのか弱くて可愛い種族だと解釈し、いろんな事を気にせず育てたらしい。
ペットかな。
このカミングアウト、俺が本当に10歳の子供だったらグレてたかもだぞ? 反抗期突入待った無しだぞ? 前世の記憶のお陰で精神が老けてるから大丈夫だけどさ。
「兄ちゃん! 兄ちゃんはオレの兄ちゃんじゃないの? じゃぁ、これからどうなっちゃうの!?」
「えーっと……?」
「何も変わらないぞ。ただこれからも大きくならない事に悩まないように事実を伝えただけだ。これからも大切な家族だからな」
目にいっぱい涙を溜めて安心した笑顔で俺を抱きしめる弟……じゃなくて義弟か。優しい家族に胸がジンと熱くなった。
前世の俺は背が高くてゴツくて、甘えたい欲を持て余し、ひっそりと暮らす人間だった。可愛い小動物に生まれ変わって可愛がられて暮らしたいと妄想する日々。
細かい事は思い出せないけど、大体そんな印象。家族の事は思い出せないから気にならない。
つまり、この大柄な種族に拾われたのは幸運と言う訳だ。俺より1歳下の……義弟のクリスピン。とっくに俺よりでかい。生まれた時から俺よりでかい。
これは一生可愛がられるフラグか!?
それは図々しいかな?
でもきっと、まだしばらくは可愛がってもらえるだろう。今のうちに楽しんでおこう。
家族からも近所の人からも道行く人からも可愛がられながら育ち、なぜ10歳で教えられたかと言うと、10歳から学校に行くはずだったから。
でも体が小さ過ぎて学校の設備が使えないだろうからクリスピンが10歳になったら一緒に学校へ通わせると決め、1年かけて2人にこころづもりをさせるためだそうだ。
大人の股下が余裕でくぐれる大きさなので小さ過ぎてトイレに座るのにも一苦労。踏み台がないと中に落ちそうになるからクリスにトイレに座らせてもらうと言う羞恥プレイ……にはもう慣れました。家には踏み台あるよ? でもお出かけするとね?
剣術や体術もあるけど、できる限りで構わないと言う。短剣だって持てるかどうか。
それから俺のためにそんなに特例を作って良いのか心配になったが、俺以外にはこんなに小さな人間は確認されてないので構わないそうだ。
入学した俺は勉強を頑張った。
ノートやペンはあるのだが、大きくて使いづらい。仕方なく、集中力を総動員して記憶力で頑張った。
結果は平均点。
……赤点じゃないからヘーキヘーキ!
学校ではずっとクリスが一緒で他に友達は1人だけ。体が弱いから武術の授業を一緒に見学している仲だ。友達は1人しかいなくても先輩方から可愛がられているし、ファンクラブもできた。
始めの頃、珍しがって集まる生徒たちにびびって不登校になりかけたのは、クリスと生徒会役員達が捌いてくれた。
1回絡めれば満足するやつ、観察したがるやつ、自慢するために友達になろうとするやつ。ファンクラブができて秩序ができて、抜けがけ禁止にもなった。
ファンクラブの会長が義弟ってどうよ?
学校では週に一度のお茶会がある。お茶会(笑)と思ったけど、男しかいない国なので当たり前の健全な交流の場だ。女の子ばかりの国もあるらしいけど、交流がないから都市伝説。
それに、トレイに乗せてお茶を運ぶだけでとても喜ばれるのが嬉しい。毎回、誰かしらの膝でお茶菓子を食べさせてもらうのも幸せ♡
順番が決まっているようなので言われた通りに1回のお茶会で10人の膝に10分ずつ座る。会長は身内なのでその順番に入らない!
家でいつもやってるしね。
「ひゃっ!」
「すすすすみません!!」
お茶をこぼされた。
熱くないけど、ズボンが濡れて気持ち悪い。困っていたら手芸部が衣装を持ってきた。
用意が良過ぎないか?
まぁ乾いた服が着られるなら構わないのでそれを受け取って着替える。その場で脱ごうとしたらいつの間にか用意された衝立の向こうに連れていかれた。
……何これ?
なんで男しかいない世界にスカートがあるの?
シャツに膝丈のジャンパースカート。
幸い、理想的な可愛い系男子に生まれ変わったので似合っていた。11歳にして完璧なショタです。ひゃっほー!!
そして今、男の娘になる!
いや、ただのミニチュア女装男子か。
衝立から出ると歓声が上がった。
そんなに喜ばれるなら、いつもこの服でいようかな? と、調子に乗ってくるりと回って見せると、数人が鼻を押さえた。
いや、それはおかしくないか?
俺は小動物ポジだぞ?
性欲の対象になんてならないだろ?
君達まだ精通前だよな?な?
お前らのでっかいの(推定)が俺に入る訳ないんだからな!!
でもみんなの反応が気に入ったので、両親に見せようとそのまま帰ったらめちゃくちゃ可愛がられた♡
お父さんの抱っこもお母さん(男)の抱っこも嬉しい♡
帰り道、クリスは抱っこしたり手を繋いだり肩車したりと忙しかった。
……肩車ってヤバいのな。
内腿に柔らかい髪が擦れて少し感じてしまった。
「ミノルは次期会計だからな」
ある日、生徒会室に会長直々に呼び出されて言われた。
あ、ミノルが俺の名前。日本語みたいだけど、『小さい』って意味なんだよ。まんまじゃないか。
うむ。
俺にとっては祝福だな。
で、会計ですか。……決定ですか?
「兄ちゃん、断って良いんだよ」
「ダメだ。校内の秩序を守るためにファンクラブの会員数順に役が決まるんだ。そして各ファンクラブ会長は自動的に風紀委員会になる決まりだ」
「ぐっ……」
何でもファンクラブ持ちは生徒会役員になるのが通例だそうで、ファンクラブができた時点で生徒会入りは決まっていたらしい。そしてファンクラブ会長は風紀委員になる事が義務付けられている。ファンクラブ同士のイザコザを失くすためなんだって。
計算は好きだから良いよ。
ノートは大きいけど慣れてきたし、まだ少し太いけど俺用のペンも特注で作ってもらって字もかけるようになったし。
でも他の役員の人達と仲良くできるかなぁ?
杞憂でした。
みんな優しいの。
かっこいい人ときれいな人とかわいい人がいる。
で、会長と副会長はファンクラブの人数で決まる。今まではかっこいい会長とかわいい副会長、きれいな書記さんだった。次年度はきれいな会長ジャンシーとかっこいい副会長ラフィニールト、かわいい書記カミール。
「かわいさで言ったらミノルには誰も敵わないけどね。ノートを取るのが苦手って情報があったから会計にしたんだよ。はぁ、かわいい……」
カミールも小さい生き物が好きなのか。
「専用の椅子も用意するし、皆で交代で世話をするから安心して引き受けてくれ」
「手洗いは踏み台を用意しましたから」
ここまで言われて断る事は出来なかったので、謹んでお受けいたしました。風紀委員会の部屋は隣だから、行き帰りはクリスと一緒で安心。
現役員達と次期役員達とそれぞれのファンクラブ会長が集まると大所帯だ。16人だもんね。みんなで帰る時、階段を抱っこしてもらって降りたら前にいた人達まで後ろに回って俺を眺めている。
「なんでみんな後ろにいるの?」
「「「ミノルを見たいから!」」」
抱っこすると後ろ向きになるからか。
全員俺のファンクラブみたい。
……図々しい事、考えちゃった。(笑)
実は俺のサイズは一部のファンが過熱する着せ替え人形サイズで、ちょうど良いサイズの服が市販されているらしい。……もしかして将来は人形の服のファッションモデルだろうか?
良いな、それ!
と言ったら今度ファンクラブのみんなでその人形のファッションショーに行く事になった。ファッションショーと言っても人形だから展示会だ。チケット制だけど人数制限はない。遠足だー♡(違う)
ファッションショーに来ました。
……すごい。
引くほどお客さん達が人形を抱っこしている。そして衣装が豪華だ……。
「やぁ、君達の子も可愛いけど見た事がないな。まさかオーダーかい?」
「おれ、人形じゃないよー」
「…………え?」
「き、君! ちょっとこちらへ来てくれないか!?」
「マイスター!」
なんだかよく分からないまま、控え室に連れて行かれたけど、たいして広くはない控え室に全員で入ると狭い……。総勢10人だからな。俺とクリスを残してみんなには会場の服を見ててもらうことにした。
「君は生きているんだね?」
「はい」
「今までどうやって……?」
「鳥の巣にいた所を拾われて育ててもらいました。この子は義弟のクリスピンです」
「兄ちゃんに何の用ですか?」
クリスが俺をぎゅっと抱きしめて目の前の人を警戒している。
「家族として大切にされているのか」
「はい! 仲良し家族です!」
「そうか。それなら良いんだ。珍しいから攫われたり見世物にされるんじゃないかと心配だったんだが……そうか」
「あのぅ、あなたは兄ちゃんと同じ種族の人達を知っているんですか?」
「……絶対に秘密にしてくれるかい?」
初対面の俺を心配してくれる人だ、秘密にして欲しいと言われたら守らない訳にはいかない。何となく。
「私はペット扱いされる小人族を連れて海の向こうから来たんだ。小人族はのんきだから衣食住が足りていれば気を悪くしないんだが……」
時折、数を増やそうとして無理矢理子作りさせようとする人間がいるらしく、好きでもない相手と一緒に部屋に閉じ込めて食事に媚薬を入れられたりすると言う。
……びやくって何だろう?
「幸せなら良いんだ。それにこの国の人は酷い事をしないようだ。困った事があったら私に連絡をくれれば出来る限りの事をする。それに仲間たちにも良ければ会いに来てくれ」
「俺、将来どんな仕事ができるだろう、って考えてたんだけど、あなたのお店で小人のファッションショーをする予定はない? 俺、モデルやりたい!」
「兄ちゃんそんな事考えてたの?」
「うん! ちょうどいい大きさの人形で人気だって聞いたからさぁ」
この国の人が小人族を歓迎してくれるようならみんなでファッションショーしても良いかも、と考えてくれる事になった。言ってみるもんだな。
連絡先を教えられて控え室を出るとファンクラブの中の裁縫部のやつが興奮状態だった。
完成品の衣装が高いので基本の型紙を買って作ってくれると言う。普段着はお母さんの友達が作ってくれた服を着てるけど会員が作ってくれる服も着る約束をした。
お茶会がファッションショーになった。(笑)
後で会った小人族の中に両親がいた。兄弟もいた。この国に来た途端、鳥に攫われたと言うのでたぶん俺の事だろう。
顔はみんな似てるので誰の子か判らない。
小人族同士では全然違うと言うけど、見慣れてないからかな?小人族はクリス達の見分けがつかないみたいだし、そう言うものか。
ファッションショーのお陰か3年で異例の生徒会長になった。普通は2年生がやるのに生徒の3分の2がファンクラブの会員で、2番目の子も俺のファンだから俺を会長にして副会長をやりたい、と。
小さいから副会長に抱っこされて会長挨拶するんだよー。クリスが変な顔してるけど、カッコいい副会長がデレデレになるのが面白いので時々頭に抱きついて頬ずりしてる。
ちゅーはクリスにしかしてないよ?
そんな感じで楽しい学校生活を送り、卒業してファッションモデルになった。その頃には他の小人族も表に出てきて一緒にモデルをするようになっていた。
秘密じゃなかったのかって?
この国の人が信仰レベルで小さくてかわいい物が大好きだったからね。副会長が大統領秘書の息子だったお陰で大統領に直接お願いができたのも大きい。
……小人族みんなで挨拶に行ったらダンディな大統領が小人族に囲まれてデレデレになって、『スクープ!大統領はお人形遊びがお好き!』って報道されちゃったから慌てて「生きてるから!」って存在を公にしたんだよね。
誰がスクープしたんだろう?
大統領が小人族の人権の保証を提案すると満場一致で受け入れられたそうだ。
いい国に来たってみんな喜んでる。
俺は相変わらずクリスに可愛がられて幸せだけど、精通を迎えて少し戸惑っている。まぁ、そのうち何とかなるだろう。
これからもいっぱい可愛がってね?
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