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「実家ってこっちだったんですね」
「ここも俺の実家だろ」
「…はい」
既に寝ているだろう両親を起こしてしまわないよう顔を寄せ小声で話す。
「あのさ」
「はい」
遥さんが胸元に顔を寄せる。
表情が見えなくなる代わりに腕を回して強く抱き締めると遥さんが頬を顎に擦り付けた。
「俺も、隠したいとは思ってないよ、お前とのこと」
「え」
「お前よりずっと能天気なのは知ってんだろ」
笑いを含んだ言い方に、俺も軽い笑いが漏れた。
「けど、男女の付き合いでも、そんなおおっぴらに言いまわったりはしないだろ?知って欲しい人にだけ言うもんだろ」
それもそうか。
遥さんの言葉に頷く。
「周りが結婚したり、子供が出来たりして、それを当然のようにお前はまだ?って聞かれることは俺もあるから」
「…はい」
「でもさ」
遥さんが顔を上げる。
顎にちゅとキスをして、背中に回していた手で俺の頬を包む。
「幸せの形なんて、人それぞれ夫婦それぞれ違うだろ?ちょっと形が違うと口出しされがちだけど、自分たちが幸せならそれでいい」
「遥さん…」
肩を押し寝転んだ俺の身体の上に遥さんが乗る。腹を跨ぎ俺の頭の下に腕を入れ抱えこむようにしながら首筋に顔を埋めた。
「お前が話したいと思った人になら好きに話せ、俺らのこと。紹介したいって言うならいつでも会うし」
遥さんの熱い息がかかる首筋も熱い。
自分のことには疎いくせに、いつもこうやって告げる前から俺の思いを拾い掬ってくれる。
「お前と出会わなかったら、とか考えんなよ」
「え」
拗ねた声に思わず肩が揺れた。
「それ、無駄だから」
「無駄って…」
「そうだろ。だってもう出会って好きになってこうして一緒にいるんだから。
お前に望まれたけど、選んだのは俺だ。
その選択を間違ったと思ったことは一度もない」
まだ拗ねた声。
その声がたまらなく愛しい。
愛しいという思いが胸に込み上げるのと同時に、鼻の奥の痛みと涙も込み上がった。
ぐずっと鳴った鼻の音を聞き、遥さんの手が俺の髪を撫で、髪の中に鼻が埋まる。
いい匂い、と小さな声が呟いた。
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