2936人が本棚に入れています
本棚に追加
※高価な虫除け。
目の前の娘が怖い。
ランチに連れて行けと言われたから空いている近所の店に適当に入り、ランチを注文し、そして今日はなんの日か、と尋ねられた。
「バレンタインだろ。それがどうかしたか」
「まさか、何も用意してないとか言わないよね」
腕組みをする娘がじろりとおれを睨む。
「用意って、お前、おれらおっさんだぞ?おっさんがおっさんにチョコレート渡す絵図らを想像してみろ、気色悪いだろ」
「誠一が渡すのはキモいけど、治さんはキモくない。スマート。紳士。スパダリ感満載」
「お父さんは悲しいぞ……」
「たぶん、いや、確信してるけど、治さんは誠一に何か用意してるはず」
うん、と力強く頷きながら真由が言う。
それは……………おれもそう思う。
貰うだけでクリスマスも結局何も渡せてない。
だから。
「チョコレートは……ねぇけど、何か、は用意してるよ……」
「え、凄い!偉い!いい子!」
「お前な……いつまでもおれの褒め方を真似すんな」
自他共に認めるあのスパダリがこの恋人のためのイベントをスルーするとは考えにくい。
眉間の皺の奥深くで、きっと何かしら考えてるに違いない。
そう思ったのは先月末になってから。
ここ数年は挨拶のように貰うチョコレートで、それまでは家の中に纏わり付くように香る真由の手作り菓子の匂いで気付いていたような、される側の一日。
思えば一緒に暮らしてない、付き合っていただけの時にも治からは何かしら貰っていた。
身体で貰ってるから気にするな、とスパダリは笑うが、こんなおっさんの身体にそれほどの価値があってたまるか。
最初のコメントを投稿しよう!