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いつものように娘からと響子さん、その日回った取り引き先からの義理チョコを入れた袋を下げ帰った部屋には、スパダリが待ち構えていた。
いつも出迎えるのはおれで、治からのお帰りを聞くことなんてそうそうない。
眉間の皺もどこへやら、スパダリが穏やかな笑顔でお帰りと言った。
「なんでこんな早ぇーの」
「バレンタインだからな。おれが帰らないと部下たちも帰りにくいだろう」
「あぁ…」
そんなこと気にするヤツだったか?
首を傾げながらリビングに向かう。
「飯、少し待てるか」
「デパ地下で色々買ってきた。先に風呂入ってこい」
その言葉が「抱かれる準備をしてこい」と聞こえるおれは末期かもしれない。
「えーと……ヤるの?」
おれの質問に治が噴き出すように笑う。
「抱かれたいのか?」
「雰囲気がそうなれば」
「そういう雰囲気以外におれが持っていくと思うか?」
「それもそうか」
我ながらアホなことを聞いてしまった。
コートとジャケットを受け取った治が顔を傾け頬にキスをする。
やめろ、と頬を拭った手を掴まれたと思った次の瞬間には煙草臭い唇がおれの口を塞いでいた。
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