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ぺろりと唇を舐められると、固く結んだ唇が簡単に緩む。
悪戯坊主のような顔が気に食わないのに、誘うだけ誘って引っ込みかける舌を追って吸ってしまう。
食われるように覆われた口、絡む舌、上顎を擽られるとまんまと鼻から声が漏れた。
「………風呂で抜くなよ」
「勃ってねーよ!」
でかい手がスラックスの上からぎゅっと股間を握った。
「うあっ?」
「本当だな」
「ばか!触るな」
「じゃあ後で好きなだけ触らせろ」
風呂いってこい、と尻を叩いた背中を睨みつける。
背中にまで色気を纏うな、と危うく口を滑らせそうになった。
いつもいつも余裕綽々な顔しやがって。
いつもいつもおればかり喘がせ、息をするしか出来ないマグロにしやがって。
飯を食い、あまり飲むなと止められた透明な炭酸を煽り、でかいソファで寛ぐでかい身体に跨って。
「……したいか?」
「愚問だな」
伏目がちでおれの顎髭を弄る長い指が誘う。
「バレンタインだしな。サービスしてやるからさっさと勃たせろ」
色気も何もない、これがおれの精一杯の誘い文句だ。
そんなおれの顎をしゃくり、スパダリは笑う。
「いい夜だな」
「言ってろ」
鼻や頬に当たる邪魔な眼鏡を外し、噛み付くように塞いだ口はいつもの煙草の匂い。
その奥にある、きっとおれだけが知る治本来の匂いを欲しがるかのように舌が伸びた。
「寝室行くぞ」
低く囁かれた声にぞくりと背筋が震えた。
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