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当夜
それは偶発的ではあったが、それでも確かに必然だったのだろう。
その日、薙野はいつもより少しだけ早い時間に帰宅していた。
いや、正確には帰されたのだ。
ちょっとしたミスが原因で、しかもそれを叱咤した上司に口応えしたせいで、
「オマエはもう帰れ」と、言い放たれた。
帰り際には、あの部下から、
「まったく不器用なんだから。僕ならもっと上手くやるのにな」
と、浴びせられる始末だった。
普段なら喜ばしいはずの早い帰宅も、まったく酷いものだ。
何をする気もおきない。
そうであったので、薙野は部屋のベッドに横になり、半ば心を失ったままで天井を見上げていたのだったが、そこにふと換気のために開け放していた窓の向こう側から、なにやら言い争う声が聞こえてきたのである。
何だろうと、薙野はベランダに出た。
すると聞こえてきたのは、
「明日香、オマエ、浮気してんだろッ」とか、
「はぁ? なにそれッ? 証拠あんのッ」とか、
そんな具合の怒号だった。
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