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半月後
あの事件があってからというもの、薙野は自分でもおそろしいほどに活動的な心持で日常を過ごしていた。
あの夜、薙野は赤いコートの女を殺した。
案の定、部屋の鍵はかかっておらず、さらに中を確認すると、不用心にも女はシャワーを浴びているところのようだった。
入念に手袋をはめてから、こっそりと侵入し、キッチンから包丁を取り、そのままカーテンの陰に身をひそめた。
それから女が部屋に戻り、着替えている最中に背後から忍び寄り、叫び声が上げられないよう口を押さえた後、心臓の辺りを狙って、包丁の刃をねじ込んでやった。
あっけなかった。
女はドクドクと血を噴き出させて、まるで美しさの欠片もない表情で床に転がったのだった。
部屋に戻った薙野は、手足は震えて止まらなかったのだけれど、頭だけは妙にスッキリとしていた。
長い間の胸の蟠りがとれたような、そんな感覚だった。
それからの薙野は何かに取りつかれたかのように冷静に、淡々と作業をこなしていった。
女の血の付いた服をゴミ袋に纏め入れると、なるべく女性らしいシャツとタイトなパンツという新しい服に着替えた。
そして、ふたたび女の部屋を訪れて、女の例の赤いコートを取り、それを羽織る。
女ものだが、華奢な薙野にはたいして小さくもない。
むしろ女性らしく似合って見える。
適当に大きめの帽子ももらって、顔を隠し、そのままの格好で、わざと棟内で唯一監視カメラのあるエレベーターを使って、マンションを出た。
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