19人が本棚に入れています
本棚に追加
マンションを出てすぐに、薙野は暗がりに隠れて、コートと帽子を脱ぐと、それを畳んで隠し持っていた紙袋へと詰め込み、薙野本人として何食わぬ顔でマンションへと戻ったのだった。
そして数日後、警察が薙野のもとを訪れた時も、彼は実に冷静だった。
不思議と自分が疑われているとは思わなかった。
そして、自信を持って、
「あの日、暗がりの道を歩いていると、赤いコートの女が自転車で向こうからやってきたんです。女は僕に気づくと、慌てて逆の方向に、逃げるように去って行きました」
そう証言した。
女の名が進藤明日香と表記することや、そして女が実は既婚者で、離婚を認めない旦那から逃げるようにこのマンションで暮らしていたことなど、それは全て、後からニュースで知った。
警察が関係者を疑っていることは知っていたのに、どうして赤いコートの女を犯人にしたかったのか、薙野自身もよくわからなかった。
ただ、あの女を殺して、それを赤いコートの女の仕業に見せかけたことは、ひょっとしたら薙野にとっての通過儀礼のようなモノだったのかもしれない。
あれから半月、薙野はまるで人が変わったかのように、仕事での評価を勝ち取っていった。
最初のコメントを投稿しよう!