結末

1/2
前へ
/15ページ
次へ

結末

コンビニを経由しての帰り道。 相変わらずに帰宅時間は日付が変わる頃だったが、いつかの疲労感が、今は満足感へと変わっている。 マンションへの近道に、街灯のない真っ暗な細道へと潜り込む。 途端にギョッとした。 ふと、闇の中に男が立っていたからだ。 「薙野秀平さんですね」 男が言う。 質問ではない。断定だ。 闇に慣れてきた眼で見れば、その姿には見覚えがある。 漆黒のスリーピーススーツ。 いつかあの女を尋ねてウチに来た、あの気取った男だと、薙野は気づく。 「君は警察の人に、暗い道で自転車に乗った赤い女を見たと証言している。それは、つまり、この道ですか?」 男の言葉に薙野はさらにギョッとした。 警察への証言が一般に漏れるはずがない。 それを知っているこの男は、何者だ? 「そうですけど、アナタは誰ですか?」 「ああ、しがない私立探偵です」 男が名乗る。 「探偵? それがなんで証言の内容を知ってるんです? 捜査資料は極秘事項のはずだ」 「いや、実は僕、進藤さんの旦那様から、奥様の捜索をお願いされてましてね。そうしたら、こんな事態になってしまったので、ちょっと、自分なりに探りを入れていたのですよ。それで証言者が君だと知った」 どんな探りを入れているのだと、薙野は肝を冷やす。 それに男は微笑みながら、 「ところで、君はよく解りましたね」 と、言う。 「何がです?」 「いや、こんな暗がりで赤い色なんて」 「そりゃ、そうですよ。赤は目立つ」 「なるほどね」 と、男はスマートフォンを取り出し、何やら操作を始めた。 そして薙野は気づいた。 「あッ」 と、あまりのことに声が漏れた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加