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結末
コンビニを経由しての帰り道。
相変わらずに帰宅時間は日付が変わる頃だったが、いつかの疲労感が、今は満足感へと変わっている。
マンションへの近道に、街灯のない真っ暗な細道へと潜り込む。
途端にギョッとした。
ふと、闇の中に男が立っていたからだ。
「薙野秀平さんですね」
男が言う。
質問ではない。断定だ。
闇に慣れてきた眼で見れば、その姿には見覚えがある。
漆黒のスリーピーススーツ。
いつかあの女を尋ねてウチに来た、あの気取った男だと、薙野は気づく。
「君は警察の人に、暗い道で自転車に乗った赤い女を見たと証言している。それは、つまり、この道ですか?」
男の言葉に薙野はさらにギョッとした。
警察への証言が一般に漏れるはずがない。
それを知っているこの男は、何者だ?
「そうですけど、アナタは誰ですか?」
「ああ、しがない私立探偵です」
男が名乗る。
「探偵? それがなんで証言の内容を知ってるんです? 捜査資料は極秘事項のはずだ」
「いや、実は僕、進藤さんの旦那様から、奥様の捜索をお願いされてましてね。そうしたら、こんな事態になってしまったので、ちょっと、自分なりに探りを入れていたのですよ。それで証言者が君だと知った」
どんな探りを入れているのだと、薙野は肝を冷やす。
それに男は微笑みながら、
「ところで、君はよく解りましたね」
と、言う。
「何がです?」
「いや、こんな暗がりで赤い色なんて」
「そりゃ、そうですよ。赤は目立つ」
「なるほどね」
と、男はスマートフォンを取り出し、何やら操作を始めた。
そして薙野は気づいた。
「あッ」
と、あまりのことに声が漏れた。
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