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確かに自分にも非があったと、それは薙野も認めている。
ただ、部下には全く非がなかったかのような上司の態度に腹が立っていた。
薙野を説教した後の上司は、部下からの「今日も素敵なネクタイですね」の一言で実に上機嫌になっていたものだ。
どうにも今夜はビールの苦みが強いように思う。
赤いコートが横目をかすって行ったのはその時だ。
例の女だ。
いつの間に来たのか、どうやらコンビニで買い物を終えた帰りらしい。
挨拶しようかと思ったが、今の薙野はコンビニ前でビールを片手になどと情けない姿であるし、前に無視された時の記憶が甦る。
薙野は静かに顔を伏せた。
すると、
「こんばんは」
と、その日は思いがけず、赤いコートの女から挨拶されたのだった。
薙野は何も返せなかった。
ただキョトンとなって、家とは違う方角の、闇の向こうに消えていく赤いコートの後姿をジッと眺めていた。
どこか、男の家へでも行くのだろうなと、そう直感していた。
ポツポツと雨が降ってきた。
ビールの苦みがますますに強くなっている。
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