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その日、家に帰った薙野はパソコンを開いて、まず『真っ赤な嘘』という言葉を検索してみた。
つい、気になったのである。
もちろん何となくは知っていた言葉だったが、なぜ赤という色を使っているのかといった語源は知らない。意味も、知っているつもりで実は微妙に違っていることがある。だから、ネットにかけて検索することにした。
すると、『真っ赤な嘘』というのは、明らかな嘘という意味だと解った。まあ、これは考えていた通りだったが、なぜ赤なのかということは初めて知った。
赤には本来、「明らかな」という意味があり、嘘を強調して使われているのだそうだ。
あの赤いコートと同じだ。
検索を終えて、なんとなしに天井を見上げながら、ふと薙野は思った。
あれから何度も薙野は女とすれ違っている。
そのうちに薙野は、女はよくよく男連れだったのだが、その相手がほぼ毎回違っていることに気づいていた。
つまりはそういう性質の女なのだと、薙野はいつしか思うようになっていた。
あの女は真っ赤なコートを塗りたくり、男に嘘を吐き続けている。
そう信じるようになっていた。
あの赤いコートの女は、きっと間違いなく薙野のことを覚えているのだ。
それでも知ったような、知らないような素振りを使い分けているのだ。
今日知ったふうに挨拶してきたのは隣に男がいないからだろうし、先日知らないフリをしたのは男がいたからだ。
そんなことも思った。
もちろんそれは薙野の妄想であって、事実としてあの女がどんな恋愛観を持っているかは知れない。
確かに、どんどんと男を取り変えて家に連れ込んでいる状況には違いない。そこから薙野が、女は男にだらしない性質なのだと考えるのも無理もないことなのだろう。
ただ、それでも女が嘘吐きなのかどうかは全く不確かなことなのだ。
ただ、たまに見る女の男への態度と、何よりあの赤いコートがあったせいで、薙野はまるで女が嘘の化身のように思えてしまって仕方なかったのである。
そして、いちど取り憑かれた想いは、まるで呪いのように薙野の心に染み込んでいくのだった。
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