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ワンルームマンションに住んでいて、しかも朝から夜まで仕事をしていれば、他の住人のことなど覚えている暇はないというのが普通だろう。 それは薙野(なぎの)秀平(しゅうへい)も同じだった。 なのにどういうワケだか、その若い女のことは妙に印象に残っているのだ。 一ヶ月に数回、すれ違うだけのその女を、薙野は鮮明に覚えていた。 女はお気に入りなのか、血のように真っ赤のコートを着ていることが多かった。 女自身は派手なタイプではない。黒髪で、どちらかといえば清楚な感じの化粧をしている。そんな女に派手なコートは似合わないのではと思うかもしれないが、これが清楚な印象は崩れずに、上手く着こなせているのだから、ファッションというのは不思議なものだった。 ある日の夜更け。 日付も変わろうかという頃。 ようやく仕事を終えた薙野は帰宅前に近くのコンビニに立ち寄った。 栄養ドリンクを見定め、そこから強力なひとつを選んで取った。 明日も仕事で朝が早い。 まだ二十代とは言え、こうも残業が続けばさすがに体力がもたない。 栄養ドリンク一本ですらも重々しく感じられる。 それにハッとして見れば、もともと男にしては華奢で細かった腕が、なんだかますますに細くなって、まるで女の幽霊のもののようにも見える。 思わずに薙野は溜息を溢した。 その時だ。 自動ドアが開いて、何か赤い影が店内に入ってくるのが見えた。 ああ、あの人だ。 薙野は思った。
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