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しかし誠は足を止めず、それどころか誰かを見つけたのか、小走りでその人物に駆け寄るのが、結奈の目に写った。
「真由美!」
「もう誠くん! 来るの遅いよ!」
「ごめんごめん。お詫びに美味しいところ、連れて行ってあげるから」
「ほんと? 楽しみっ」
誠は結奈の見たことのない女性を軽く抱き締め、彼女に笑みを向ける。
「誠……?」
結奈は信じられないという表情で、恋人の名前を呟く。
そんな彼女の声が聞こえたのか、真由美と呼ばれた女性が振り返る。
「誰? 誠くんの知り合い?」
「い、いや。知らないよ。誰かと間違えてるんじゃない? それより早く行こう。予約の時間が迫ってるから」
誠は真由美を急かすように彼女の肩に腕を回して歩き出し、そのまま人混みの中に消えていく。
「……」
結奈はただ呆然とその場に立ち尽くすことしか、できなかった。
繁華街の多くの人が行き交う場所で、彼女の恋は無惨にも終止符を打たれたのだった。
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