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 もう何度寝返りを打ったことだろうか。眠気なんて感覚が本当にこの身体に備わっているのかと疑問になるほど、意識がはっきりとし続けて寝付けない。もともとそれほど寝付きは良くない方だけれど、特に今日はちっともダメだ。  四角い天井を見上げながら、ずっとあれこれと考えている。あれをしなければ、これもやらなければ、でも本当はあれがしたい。だけど、こうだから、できない。よくあるクヨクヨとした思考である。しかも大抵の場合、それらは「こうすればいい」という明確な解決法があるのに、なかなかそれに手を出すことができない。僕という人間は、いつも、こうだ。そう思うと、なぜ、いま僕の隣で寝息を立てている家族以外の異性がいるのか……ということが、ますます疑問になる。  告白をしてきたのは、向こうの方からだった。何がよかったのかはわからないが、紆余曲折を経て、僕はいま隣で眠りに落ちている藤澤玲佳(ふじさわれいか)と付き合っている。玲佳はいつもすぐに寝入ってしまう。その寝付きの良さはどこから来るのかはわからないものの、玲佳は僕と違ってあれこれと悩んでいるより、まずは行動に起こしていく方の性格だから、それも当然のことなのかもしれなかった。  もう一度、寝返りを打つ。今度は、隣で眠る玲佳に背を向ける態勢になった。布団の中で少し冷えた空気を隔て、ヒトの温もりが確かにある感覚を、僕は感じていた。 ないように。
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