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あの子は昔から小説とか漫画ばかり読んでいて、ちょっと夢見がちなところもありました。いえ、仕事って理由であまりかまってあげられなかった私も悪いのですが……。それでよく言えば、純粋だったのです。
小学三年のある日、家で飼っていた鶏が野犬に襲われることがありました。夫とお義父さんがいち早く気づいて、死体を乗せるため肥料を運ぶようの大きなカートを畑に取りに行ったのですが……。
その間に、燃やしたのです、茉莉香は。
よく掃除もしていて可愛がっていたのに、なぜかもっていたライターでばらばらの鶏の死体を燃やしていました。
ああ、この左側ですか? その時広がった炎で古い柱が倒れてきたので、慌てて茉莉香をかばった時に焼けたのです。恐ろしくて仕方ありませんでした。体はまだ隠せるからいいですが、顔はやっぱり化粧で隠しても目立ちますね。
それからは娘とどう接したらいいのか分からなくなって会話のない日々が続きました。でもよく考えるとあの時きちんと向き合っていれば良かったのです。
……最近、関係が悪化してなんだか見えてないみたいなのです。私だけ、まるでその場にいないかのように家で振舞うのです。無視をしているわけではなく、ほんとうに見えてないようです。夫も異変に気づいてこの前精神科へ連れて行きましたが、お医者様は強いストレスによる健忘症がもたらしたものではないかと……。
一時的なものだから、そのうち急に戻ることもあるとおっしゃられていたのですが、昔の記憶とかではなく、存在自体を忘れるなんてそんなことありますか。
目の前で一緒に食事をして、家事だって仕事に行く前と帰ってからきちんとやっています。なのに、いるのに実の母親を見ようとしないなんて。夫が少し前にまったく左を見ようとしない時があったと言っていたのですが、何か関係あるのでしょうか。
さすがに、耐えきれなくなってきまして、少しの間実家に帰ることにしました。その間で娘になにか変化があればいいんですが……。
でも無理でしょうね。
あの子の中で私は、きっとあの時の――燃えぞこないなんでしょうから。
END
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