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夜、シャワーを浴びる時、赤いやつを見ないように蛇口を探したりシャンプーとトリートメントを間違えないように出すのは少し大変だったけど、それでもいつもの習慣で何とか終わらせた。
脱衣所を出ようとした時、お父さんの怒鳴り声が聞こえた。慌ててドアノブにかけていた手を放す。
「だから、もうあそこで燃やすなってこの前も言ったやんか!」
「なんでね、要らんものは捨てんとしょうがなかたい」
どうやら、お父さんとじいちゃんが言い争ってるみたいだ。脱衣所の前はじいちゃんの部屋になっているから出るに出られなくなってしまった。
「燃やさんでも捨てるだけでいいやろ。そうやってオヤジがマリカの前で見せるから、あんなことが起きたんじゃなかとや!」
あんなこと。
ドアに背をつけたまま、口元を手で押さえる。
なんだかどうしようもなく吐き気が襲ってきた。断片的に映像が脳裏に浮かぶ。
小屋の鶏たちの悲鳴。慌てて小屋に向かうお父さんとじいちゃん。私も後から向かって――それで。
フミエさんには悪いことをしたとじいちゃんが言った。
お父さんはもういいと言いながらまだ怒っていた。私は頭が真っ白になって、気づけば二人の前に出ていた。
一瞬お父さんは言葉を飲み込んだが、絞り出すように口を開いた。
「マリカ、もう燃やすなよ。ほんとにいらんならゴミ箱に捨てるだけでいいけんな」
でも、燃やすじゃん。捨てたやつだって結局どこかで燃やすなら一緒じゃないの。
なんだかつらそうな声だけど、お父さんの表情が分からない。右に立ってくれてたらよかったのに。
左は見たくなくて俯いていると、お父さんは足音を立てて去っていった。キッチンから食器がぶつかる音がかすかに聞こえた。
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