サラによる福音書 第一章

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 その後、私はクロードが壁に穴をあけてくれたおかげで運良く別の小部屋にあった地下階層から元の場所へと戻る昇降機を発見し、何とかロック達と合流して他の放浪者の仲間の元へ戻ることが出来た。  思えば地下階層へ落下しただけでなく、角人と目と鼻の先程の距離で出くわしたのに、ほぼ軽い怪我だけで生還を果たせたのは奇跡に近いものであろう。角人から逃れられたのも、昇降機を発見することが出来たことも全て彼のおかげだ。彼が起こした奇跡である。クロードと名乗った白髪の放浪者は一体どこへ行ってしまったのだろうか。  クロードが倒した角人はおそらくここら一帯を管理してた下位の角人だろう。しばらくは角人に怯える心配もなく、生存者の捜索や地域の探索が可能であることをロック含めた他の観測者の皆にも伝えた。しかし、角人が消滅したことや、クロードという人並外れた放浪者の存在をにわかには信じられなかったのか、 「サラ。今は気が動転しているかもしれないが、もう大丈夫だ。しっかり休みなさい。」 などと片付けられてしまった。  結局生存者は見つからず、探索も私の件があって危険とされ、場所を移動することとなってしまった。 当時の私はこのままここを離れるとクロードとは二度と会えない予感がしていた。私の日記程度の記録ではなく、しっかりと仲間全員に彼の存在を認めてもらいたかった。私には、彼にこの世界を救う鍵が隠されているように感じていた。また、先程の角人がアイトネに感じていたものとおそらく似たような思いを彼に感じていたのだ。  私は彼との再会を半ば諦め、旅を再開した。が、意外にも先程私が感じた予感は、5年の歳月を経て綺麗に外れてしまうこととなる。
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