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ドニとロシェは甘いものが好きだ。なので彼らが遊びに来るときは多めに菓子を焼くのだが、たくさん食べてくれるので残ることは少ないのだ。
キッチンで準備を終え、蜂蜜漬けをいれた水と焼き菓子をお盆にのせて戻り、それをロシェの前へと置き、自分には紅茶を用意してきた。
「アンタってなんでも出来るんだな」
「まぁ、世話係は俺一人だからな」
「そうだけどさ」
彼は自分と目を合わせない。いつも俯いて話すのが気になっていた。
ファブリスが向ける視線には気がついている筈だ。
「なぁ、君はどうして俯いているんだ?」
「あぁ? 別にいいだろう」
「人と話す時は目と目を合わせるものだ」
「うるせぇよ。醜い跡を見せないようにしてやっているのに」
気持ちが悪いだろうと、ケロイド状の火傷跡を指さした。
どうしていつも俯いているのか理由がわかった。
「なんだ、それを気にしていたのか」
「なっ、俺が気を使って」
「そんな気など使う必要はない」
そっと、火傷の跡に触れようと手を伸ばせば、
「やめろ」
と手を払われてしまう。
「ロシェ」
「触るな」
「俺は、気にしていない」
今度はその箇所へと口づけを落とした。
「なっ」
「この火傷の跡もロシェの一部なのだからな」
そう言った途端に彼の顔が真っ赤に染まり、勢いよく立ちあがった。
「帰る」
まだ食べている途中なのに、屋敷に向かって歩き出した。
シリルが同じことをしたら行儀が悪いと注意するが、ロシェに対しては違った。なんというか、可愛い反応を見せられて、グルグルと喉が鳴る。
「これは、また……」
口を手で覆い、ロシェの後ろ姿を見つめる。
すぐにドニを引きつれて外へと出てきた。その後ろには見送りに来たシリルがいる。
「気を付けて帰れよ。ロシェ、またな」
ギクッと肩が揺れ、そして無視して早歩きで去っていく。
「ドニ、またな」
「またね。ちょっとロシェ、そんなに引っ張らないでよぉ」
なんて好ましいんだろうか。もっと深く彼を知りたい。
「ファブリス、楽しそうだ」
「楽しいさ。人という生き物は実に興味深い」
「そうか、よかった」
そういうシリルも表情が明るい。自分では決して心から笑顔にしてやれることはなかっただろうから、二人の存在は大きなものだ。
◇…◆…◇
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