465人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
ドニが言いたいことが解らず、席を立とうとすれば、ファブリスが肩を押さえてそれを止める。
「ロシェ、お前等の為に焼いたパイだ。もっと食え」
大きくカットしたパイを皿の上へと盛る。そして暖かい紅茶をコップに注いだ。
それを口にすれば、イライラしていた気持ちが収まってどうでもよくなってきた。
「はぁ、お前ってやつは」
と、何故かため息をつかれた。
「なんだよ」
「いや、美味そうに食うなと思ってな」
「はぁ? 俺よりドニの方だろ」
そちらへと目を向ければ、相好を崩しパイを頬張っているドニの姿がある。
確かにそうだなとファブリスが笑い、
「ついているぞ」
と親指でロシェの口の端を拭うと、指についたそれを舌で舐めとった。
その仕草に、耳がやたらと熱くなる。
「ガキじゃねぇんだから、やめろよな」
「ん?」
「くそっ」
シリルとドニがニヤニヤとしながら自分を見ている。子ども扱いされているのを面白がっているのだろう。
「見るなよ。お前の分も食っちまうぞ」
二人の皿の上のパイにフォークを突き刺そうとすれば、ドニに皿を避けられてしまう。
「ロシェってば、食い意地が張っているんだから」
と取られないように自分の手でガードをしながらパイを食べ、
「まぁ、ファブリスの作ったパイは美味いから、食べてしまいたくなる気持ちは解らなくもないぞ」
シリルは笑みを浮かべて優雅に食べる。
「本当に、美味そうだ」
そうファブリスがポツリと呟き、
「自画自賛かよ」
自分のパイに乱暴にフォークを突き刺せば、苦笑いをするファブリスと目があった。
最初のコメントを投稿しよう!