ファブリスとロシェ

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 ドニが言いたいことが解らず、席を立とうとすれば、ファブリスが肩を押さえてそれを止める。 「ロシェ、お前等の為に焼いたパイだ。もっと食え」  大きくカットしたパイを皿の上へと盛る。そして暖かい紅茶をコップに注いだ。  それを口にすれば、イライラしていた気持ちが収まってどうでもよくなってきた。 「はぁ、お前ってやつは」  と、何故かため息をつかれた。 「なんだよ」 「いや、美味そうに食うなと思ってな」 「はぁ? 俺よりドニの方だろ」  そちらへと目を向ければ、相好を崩しパイを頬張っているドニの姿がある。  確かにそうだなとファブリスが笑い、 「ついているぞ」  と親指でロシェの口の端を拭うと、指についたそれを舌で舐めとった。  その仕草に、耳がやたらと熱くなる。 「ガキじゃねぇんだから、やめろよな」 「ん?」 「くそっ」  シリルとドニがニヤニヤとしながら自分を見ている。子ども扱いされているのを面白がっているのだろう。 「見るなよ。お前の分も食っちまうぞ」  二人の皿の上のパイにフォークを突き刺そうとすれば、ドニに皿を避けられてしまう。 「ロシェってば、食い意地が張っているんだから」  と取られないように自分の手でガードをしながらパイを食べ、 「まぁ、ファブリスの作ったパイは美味いから、食べてしまいたくなる気持ちは解らなくもないぞ」  シリルは笑みを浮かべて優雅に食べる。 「本当に、美味そうだ」  そうファブリスがポツリと呟き、 「自画自賛かよ」  自分のパイに乱暴にフォークを突き刺せば、苦笑いをするファブリスと目があった。
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