君に恋している

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 そちらへと視線を向けると、じっと見つめるドニとシリルと視線が合う。 「僕たちのことは気にせずに続けるとがいい」 「大人しく見てるから」  どうぞと言う二人に、ファブリスは頷いてロシェに再び口づけようとした所で、彼の手に止められる。 「馬鹿か、お前等は!」  その言葉の意味、そして行為を止める理由がわからない。ファブリスはロシェを見る。 「交尾を恥ずかしがる獣人はいない」  ぐっとこぶしを握りしめて言うシリルに、ファブリスは肯定するように頷き、ロシェは肩を落とした。 「人は気にする生きモンなんだよ」  そういうものなのかとドニに尋ねれば、 「まぁ、自分のは見せたくないと思うけれど、他の人のは見てみたいという欲は……」  という返事だ。それなら問題ないなとロシェの肩を掴むが、それを振り払われる。 「ふざけんなっ!」 「あはは、ごめん。でも、ロシェがファブリスが、ねぇ」  ドニは同意を求めるようにシリルを見ると、 「ファブリスは立派な大人の男。交尾をしたいだろうと思っていたが、相手ができてよかったよ」  と口にする。 「もう、やめてくれ」  真っ赤に頬を染め、シリルの口を手でふさいだ。 「ロシェ、真っ赤だぞ」  とドニが笑う。 「うるさいッ。帰るぞ」  ドニの腕を掴んで引っ張る。 「え、あっ、待って」 「待て。今日のおやつはバタークリームのケーキだぞ」  その言葉にピタリと足が止まる。  そう、あれは数日前のことだ。バタークリームのレシピを手に入れ、それをケーキに塗ってだしてやった。  相当気に入ったのか、食べる度に目元をとろんとさせ、可愛い顔を見せていた。  その顔が見たくて今日も作ったのだが、効果覿面だ。 「そういえば腹が減ったな」  と椅子に座る。 「そうだね」  ドニが笑うのを我慢しているのか、頬が引きつっている。 「今、用意する」  素早く準備を整えて目の前にカットしたものをだしてやれば、口元を綻ばしてそれを食べ始めた。
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