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13
ーー部活帰り、その日はなぜか校門に輝也が待機していて、笑顔で私の方に手を振っていた。
「え、どうしたんですか?輝也さん。」
「いや今日急遽儚日ちゃんのお母さんたち家空けるってんで儚日ちゃんのこと任せられちゃったんだよね。」
駆け寄っていくと頬をかきながら輝也は笑った。まあお母さんたちすぐどっか出かけるからな。あの歳であんなにおしどり夫婦だと逆に羨ましくなる。私は恋愛どころか殺された身だし。
「なんかごめんなさい。うちの親がいつも。」
「いいんだいいんだ。俺もどうせいっつもひとり飯だし。人数多い方が楽しいって。ねえせっかくだし今日はカレーでも作らない?」
「ええ、それ輝也さんが食べたいだけでしょ。」
「あららバレちゃった。」
それからたわいもない会話をしながら夕飯の買い物をして、マンションに着いてしまった。
「あれ、楓くん?こんな時間に。」
そこにはポストのところに立っていた楓がいた。楓は私たちと向かいのマンションだ。私たちのマンション内にいるのはおかしい。
「楓?」
私の顔を見ると楓はハッとして出口へ向かって走っていった。輝也がいるのも忘れ、咄嗟に私も追いかける。
「楓、待ってよ!」
さすがに文化部運動経験皆無な私が運動神経抜群の男の子に追いつくのには無理がある。こんなに呼んでいるが向こうはどんどん距離を遠ざけてくる。てか、楓も普通止まってくれるじゃん。おいおいー!
「わっ!!」
何もないところで躓く。外のコンクリートの道でこれは痛い、流血沙汰か?思わず目を瞑るが、いつまでたっても痛みはやってこなかった。ゆっくりと目を開くと、なんとも言えない暗い表情をした楓が私を支えてくれていた。
「…楓。」
あの距離を私が転んだから戻ってきたのか。どんだけ速いんだ。
「…危ないだろ。」
「誰のせいだと思ってるの?」
「ごめん。」
ずっと私と目を合わさない楓は、やっぱり何かが変だ。
「ねえ、なんで私と距離とってるの?私が公安委員会であんたが生徒会だから?」
「それも、あるけど。」
「なに?また茗荷谷に何か言われたの?」
そう言うと苦い顔をする。さっきから表情をころころ変える楓は今までとはまるで違う人間に見えた。
「…それは言えない。でも、お前が危ない目にあうのは、見たくないんだ。」
今度はすっと目を合わせられる。私の袖を掴む力が強くなる。そのまま楓は続ける。
「だからこれからは俺にはあまり関わるな。お前には安全な場所にいてほしいんだ。…俺はお前が、好きだから。頼むよ。」
懇願するような声は響いた。楓は私の袖から支えてくれていた手をゆっくりと離し、また目を逸らされる。頭が真っ白になる。間もなく楓は走り出し、追いつけない距離まで行ってしまった。
「おーい!儚日ちゃん、楓くーんって楓くんもう行っちゃったか。」
輝也が後から追いかけてきていたようだ。佇んでいる私を不思議そうに見つめる。だが、今はそんなこと考えられないくらい自分の顔が熱い気がする。だって、そんな素振り今まで一度も。それに、
「私、助けてもらったのに。…またありがとうって言えなかった。」
なぜか頬に温かいものが流れてきた。何も言わず輝也はぽんぽんと背中をさすってくれた。少し私を落ち着かせてから輝也は夕飯を変更しようと提案してきた。そのまま彼に任せて私はソファでグズグズしていた。
「ほら、お食べ。」
ニコちゃんが描かれた輝也特製のオムライスはいつも以上に美味しく感じて、また涙がこぼれてしまった。
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