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幼き頃の記憶
あれは僕がまだ小学校に入ってすぐの夏休みの出来事だっただろうか。
大人になった今、改めて考えてみると、あれはわりと残酷なことだったと思う。
母は夏休みに入るとすぐに僕を連れて、実家がある北海道に旅たつ。そして新学期が始まる直前まで、暑さを凌ぐのが幼稚園児の頃から恒例だった。仕事で忙しい父はもちろん置き去りだ。
母の実家ー僕の祖父母の家なのだがーには広い芝生の庭があって、回りの花壇などにはいろいろな花や木が植えられていた記憶がある。当時の僕は芝生を走り回り、ツツジの生垣みたいな大きな塊に身体全体で突っ込んでいくのが好きだった。
八月の中旬ぐらいだっただろうか。この頃になると北海道はだいぶ涼しくなり、庭にはたくさんのトンボが飛び始める。赤トンボが一番多く、青っぽいトンボや黒っぽいトンボは少なかった気がする。数日前にオホーツクの砂浜で拾った、手のひらくらいの貝を二つほど手にして、僕はツツジの生垣に腰かけて、それを見ていた。
「あっ! そうだ!」
子どもは無知ゆえに、残酷な考えに至ることがある。
「この貝にトンボをたくさん詰めてみよう!」
当時の僕は、貝からたくさんのトンボが飛んだらさぞ綺麗だろう、母にも見せてあげたい、と思っていた記憶がある。
しばらくの間、赤トンボの羽をつまんでは、むしらないようにしつつ、あわせた貝の隙間から詰めようとした。だが捕まえたトンボは、その隙間から一匹ずつ逃げていく。
結局、貝のなかには二匹ほどしか入れておくことができず、断念してしまった。そして、僕の周りには、力加減を間違えて羽をむしってしまった、赤トンボの残骸だけが残っていた。
「あーあ。お母さんに見せたかったなぁ。トンボが飛んでくとこ」
……その気持ちだけは、今でも僕の胸のうちに残っている。
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