19人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
────告白(玉砕)から一ヶ月後。
失恋の余韻も冷めつつある五月末の放課後、夏目葵は図書委員会の当番でカウンター内の仕事をしていた。
今日は二年E組が受付業務を担う日で、貸出の受付で仕事をする葵の隣には、クラスメートの相楽壱貴が返却の受付で仕事をしている。
カウンター内に座り始めてから、貸出は二人。返却は三人。とうとう図書室からは生徒の姿も見られなくなり、とうとう室内には二人きりになってしまった。退屈な時間はあと三十分で終わる。
葵は受付カウンター内で返却されていない本の確認を取った後、帰りやすいように室内のカーテンを閉めてこようと椅子から腰を持ち上げた。相楽に一言告げてからカウンターを出ようとしたが、やけに静かだ。
基本的に彼は物静かだが、それまであった息遣いやら衣擦れの音までピタリと止んだのだ。
見ればスマホを片手に、画面に落としている眼鏡の奥の瞼は閉じられネクタイが下がる胸元は定期的に浅く上下を繰り返している。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
今年から同じクラスになったばかりであまりまだ彼については分からないが、黒縁眼鏡を掛けた目はいつも冷静で、腹を抱えて笑っている姿は未だに見たことがない。挨拶や最低限の会話以外交わした事もなく、同じ委員会に就いても、個人的に話をすることは無かった。
彼には独特な雰囲気を感じていた。友人から聞いた話では、一年の頃は成績も優秀でクラス委員長を努め、クールで物静かながら上手くクラスを纏めていたという。自分の事は殆ど口にせず、そんな寡黙な人柄が一部の女子にはミステリアスに見えるのか、数人から告白を受けていた。それでも本人は全く恋愛には興味が無いようで、お断りの連続だったそうだ。
最近振られた側の葵にしてみれば複雑な心境だが、断る方もそれなりに疲労しているのだろう。相楽は思ったことを遠慮なく口にするタイプに思える。
葵の頭の中には、勇気を出して告白した女子に「俺より頭良くなってから出直してきてくれる?」と冷たい目で痛烈に返事を言い渡す相楽の姿が浮かんだ。
そんなイメージが、会話を避ける要因の一つとなっていたのだ。
眠っているなら丁度いい。黙ってカーテンを閉めて来よう。
そう思った矢先────相楽のスマホがスルリと手の中から滑り落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!