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「い、いや!まとめサイトで見ただけでして!ちょっと待ってね!」
知ったかぶりをしないのが彼の美徳だ。嫌いじゃない。
佐々木は右手でiPhoneを、左手で寝癖を大急ぎでスクロールさせ目的のページを探し始めた。
どうやら寝癖がついていたのも、それがあまりカッコいいものではない事も知っていたらしい。
頭を左に傾け、両手でせわしなく動く姿はシルエットだけ見るとDJみたいだが、友人としては筆舌に尽くしがたい哀愁を感じる。
「ほら!コレ!このページ!」
ページの表示されたiPhoneを受け取った淳子が割れた画面の奥を眺めている間も、佐々木は断崖絶壁を左手で必死に均そうとしていた。
「へぇ、マリーゴールドの花言葉って【変わらない愛】だけじゃないんだ。知らなかった!」
佐々木は照れた様に笑った。いや、別にお前は褒められていない。お前は別に【変わらない愛】でも何でもない。
DJ佐々木の後頭部にパンチでも入れようとしたその時、ちょうど始業のチャイムが鳴り響いた。
「あ、これごめん。もう落とさないようにね!それと、その寝癖はズルいよ」
そう小声で囁き笑いながら、淳子は蜘蛛の巣が張ったようなiPhoneを丁寧に手渡し、自分の席に戻っていった。
DJ佐々木は「っんん!」というイエスなのかビックリなのか、どちらの意味にも取れそうな返事をしてiPhoneをすぐにポケットにしまいこんだ。
そしてまた寝癖を二、三回撫でた後、こちらを振りむき、僕の目を見ずに恥ずかしそうに言った。
「大竹、佐伯さんはひょっとして、俺のことが好きという可能性が微レ存?」
いつの時代のネットスラングだと思いつつ、使い方があってるのかもわからない言葉と紅潮した頬が何となくムカついたので、僕はDJ寝癖に肩パンを入れてやった。
拳がめり込むと同時に「なぜっ!?」と佐々木は小さく叫んだ。
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