ヒトキライ

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 目の前の女が言うには、雑居ビルでは以前に一家惨殺事件があり、棲んでいた家族やビルの住人数名が発狂した亭主に殺害されたとある。 十七歳の女子高生や、サラリーマンに主婦と自分たちと境遇が似ている。 このことから、自分は本当は故人で、やって来たのは本物の霊媒士。本当に本気で除霊するためにビルにやって来たのではないかと日崎は目を大きく開いた。 自分が故人ということは、百物語に参加した人間全ても、故人だと言えるが、自分たちには生きた人間に対する怨恨感情は全くない。 それなのに、いるだけで悪霊扱いされるのはどうも腑に落ちない。  「何よ。なんで私が除霊されなきゃならないのよ。ここから立ち去るのはあんたの方よ!」  日崎を除き、百物語に参加した幽霊たちは女霊媒士に全員除霊されてしまったが、自分も除霊される訳にはいかないと、日崎は女の肉体に憑依を試みた。  「私に憑依しようと言うの、小娘の幽霊の分際で霊媒士の私をコントロールしようとはいい度胸じゃない」  日崎にコントロールされまいと、女は意識で抵抗するが、日崎も簡単には引き下がらない。  「私がオバサンのあんたに負けると思ったの?」  「私の体から出ていきなさい、生意気な小娘ね!」  女は日崎と戦いながら、ふらふらと道路の方に飛び出した。 その刹那、横から大型トラックが走って来た。女は目の前が真っ白になり、意識がなくなってしまう。
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